第2話

 一階まで階段を降り、更衣室へと向かう。

私達がバタバタと走る足音に段々と他クラスの同輩、後輩の足音が混ざり大きくなる。

更衣室までの道のりで先輩と合わないというのは大問題だ。

今までのダンス部の活動で身につけた早着替えで体育着に着替え、走って体育館へと向かう。

昼練の時にはわざわざ練習着に着替えるのが面倒くさいので、比較的体育着の人が多い。

 

体育館に入ると、先輩達が準備万端な様子で自主練をしていた。


遅れてすみませんでした!


という声がバラバラと入り混じり、体育館へと入場していく。


遅いよ?


先輩の中の1人が言ったのが聞こえた。

私達はみんな揃って返事をする。

少しの間沈黙が流れた。




切り替えてこ!


他の先輩が声をかける。今の声は、

らな先輩だ。


女子校では、部活に入っている人は皆、

「推しの先輩」が出来がちで、学校生活の中ではその先輩の推し活に精進する。

らな先輩は中でもとても人気があり、今の声掛けにも同輩の数名や後輩達の群れが少し沸いているのを感じた。

可愛くてスタイルがよく、正直ダンススキルがらな先輩よりも高い先輩は沢山いるが、らな先輩のダンスはとても見栄えがとても良いのだ。

ちなみに、各先輩にはトップヲタクがいて、らな先輩のトップヲタクは、まみだ。

一個差の先輩後輩間は仲良くなることが多いが、中でもまみとらな先輩はとても仲が良くて有名だ。

高1にもその噂は広まっているらしく、まみのことを羨む声が絶えない。


他の同輩もほとんどの人が推しの先輩がいる。

が、私は先輩に対して推しという感情を抱いたことがない。尊敬はしているが、そこまでの熱意で人の事を好きになったことがないのだ。

まみを含む同輩にはよく、


はるも推しの先輩作りなよ!


と言われるのだが、それがなかなか難しく、

先輩という存在のいる最後の学年になってしまった。

たまに、人生の中で「好きな人」が出来るのか不安に感じる時がある。

それくらい私の中で「好きな人」というのは簡単には扱えない、貴重な存在なのかもしれない。


今の時期は1週間後に控えた、新入生歓迎会に向けた練習が行われている。パフォーマンス自体はだいぶ出来上がっていて、とても良い感じだ。今日の昼練では、エンディングの全員で踊る場面を合わせる。エンディングでは、隣の人と2人1組になって踊るペアダンスのパートがあり、私のペアは高3のりんか先輩だ。

りんか先輩は、明るくてとても面白く、後輩達にも距離を感じさせずに気さくに話しかけてくれる先輩だ。ペアダンスの位置に着いた時のことだった。私は昼練にりんか先輩が来ていないことに気がついた。ペアがいない中でもどんどん進んでいく音楽と周りのみんなに取り残され、1人でどうすれば良いのかあたふたしていると、ちょうどその時、体育館の扉が開いた。


遅れてすみませんでした!


と、大きな声で入ってきたのはりんか先輩だった。私はペアダンスの相手を見つけて安心したと共に、何か異変を感じた。

りんか先輩は前髪を作っていたのだ。

昨日までのきっちりとアップにしたポニーテルとは一変し、きれいに揃った前髪と、くるんっとした触覚があった。

小走りで私の隣にきたりんか先輩からは、バニラのようなよい香りがして、前髪のせいか、なんだかいつもよりも幼く見えた。

なぜかは分からないけれど、練習中、そんなりんか先輩のことをいつものように直視することができなかった。


りんか先輩を見てから、胸がギュッと締め付けられる感じがした。

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女子校日記 しょうがさん。 @monazuishi

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