32話
目の前で踊る絃を見て、はっとした。
――こいつ、踊り方が普通じゃない。
ただリズムに合わせて体を動かしているだけじゃない。
楽しんでいるだけじゃない。
その動きには、誰かに見せようという意識が、自然に混ざっている。
だから、思わず口から出た。
「お前、アイドルになりたいのか」
絃は一瞬、顔を赤らめて目を伏せる。
少し恥ずかしそうな、でも屈託のない表情。
――その様子さえ、愛おしく感じてしまう。
今まで誰にも見せなかった表情、誰にも見せなかった一面。
その全てを、俺はこの屋上で、たった一人で見ている。
――これが、俺と絃の出会いだった。
緊張と不思議な感覚が胸の奥で絡み合う。
恐怖でもない、怒りでもない、ただ心の奥がざわつく感覚。
でも確かに、この瞬間が、昨日の公園の出来事から続く、俺たちの始まりだと知っていた。
――あの夜、公園で手を差し伸べられたときのことも、
今、踊る姿も、全部が鮮明に重なっている。
屋上の風と青空の下で、俺は初めて――絃という存在を意識した。
そして、この子のことを、無視できない自分に気づいていた。
結 -むすび- yuuuuuuun_0306 @yuuuuuun_1207
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