第10話 ネミズィアヒアイウゼドウ
およそ3メートルだろうか。夢で見たままの巨神の顔がそこにはある。
「ネフスジエフ」
やっと会えたな。
「イジアヘディアイウゼドウ」
「ネフスジエフ?」
何を言っているんだろう?黒き巨神の言葉はいつも慈愛に満ちたものだ。
「エイシマャウフネフスジリウヒン」
「ああ、そうか。今理解できるようになったよ」
俺がネフスジエフの言葉を理解出来るようにしてくれたのだ。まるで最初から知っていたかのように理解できる。
「ネフスジエフは……俺の
「イジアヘディアイウゼドウ」
(汝は愛しき我が子)
「そうか……ずっと、守ってくれてたんだな」
「イフシュ」
(然り)
ネフスジエフは頷くと
「……ネフスジアブ」
そしてネフスジエフは
「ネフスジエフ……!」
しかし
「ウトゥナベゲフズ」
(裏切り者め)
「イエルネリアナイェフズィネムネフシエウ」
(そんなに小人どもが大事か)
「イアル、アルジュ」
(おいで、アルジュ)
その時アルジュの名にハッとすれば、アルジュの神騎が解除され
「アルジュをどうるす気だ……っ」
そして
「どうしようもこうも……ぼくは、ネフスジアブさまに造られたものだから。ゼキくんから聞いてないかい?」
アルジュはゼキが俺に打ち明けることも読んでいたのか。
「ぼくの役目は君たち人間たちのデータの収集だ。しかし拙い言語理解では君たちに誤解を与えてしまったね」
白き巨神の胸元でアルジュは語る。確かにアルジュは不思議な言い回しをしたけど、それは単に共通語が不自由ってだけじゃなかったのか。
「だけど……君もネフスジエフにとってのそうなんだろう?」
「そんなことっ」
ネフスジエフを振り返る。
「イフスブ」
(否)
ネフスジエフが首を横に振る。
「ネミズィアヒアイウゼドウ」
(我が愛しき子よ)
ネフスジエフがイメージを伝えてくる。これは……俺が、生まれた記憶?
脈略もなく、ある日突然にネフスジエフから生まれた赤子。それを共に見てるのは小さなルーン……?
ネフスジエフは遺跡を訪れたリュウ兄に赤子の俺を託した。
その数年後だったか……再び遺跡でリュウ兄が拾ってきたのがルーンだった。ルーンは……俺よりも早く生まれていた。
「イフシュ」
(然り)
ネフスジエフが頷く。けれど……そうなのか。ネフスジエフがイメージを伝えてくる。
ルーンは人間の言葉を話せなかったんだ。だからこそ俺には人間の言葉を話せるように巨人語を封じて人間の声帯を作った。
――――人間として生きるために。
けれどどうして数年後にルーンをリュウ兄に託したんだ?
「イデグ」
そうか……
そんなネフスジエフが俺たちをモノのように扱うはずがない。
「そんな……どうして」
アルジュもネフスジエフがそのつもりがないことを悟ったのか驚愕の表情を浮かべ、悲しげに笑んだ。
「エンフスフェン」
(贄としての幸せを)
それって確か……っ。そうしてアルジュは白き巨神の中へと吸収されていく。
「クソがっ」
ゼキの憤る声がここまで響いてきたようだった。
「リン、ルーン」
ネフスジエフが俺たちを呼べば、ルーンの言葉が響いてくる。
「えぐに……リン兄!」
「……っ」
こちらに向かってくる兄弟が球体を纏えば神騎の装甲を纏う。
イデグだから、ルーンにもその力があったのだ。そしてみんなに神騎の力を与えたのは俺がネフスジエフの子として代理として授けたからだ。
「ルーン」
「リン兄、一緒、タタカウ!」
「うん、ルーン」
本当は反対なのだけど。でもルーンはやっぱりかわいい弟だ。俺も神騎の装甲を纏う。
「ネミズィアヒエゴウ、クガタチ」
(愛しき我が子らに異界の冥界神の太刀……クガタチを)
「異界……?」
ネフスジエフから伝わってくるのは冥界神と呼ばれるがゆえに繋がった因果から送られてくる世界を調律する存在。ネフスジエフはずっと探していたのだ。人類が打ち勝つための力を。そのひとつが神騎。
「人間がその力で打ち勝つことに意味がある」
アテナがネフスジエフの傍らに控える。いや、アテナだけじゃない。
アルテミスが口を開く。
「アモアドゥネフスジャドゥネフスジョアドゥナン」
(私たちが倒すのでは意味がない)
続いてアディティア。
「アイアルグナイジェデイーマエルネルイジ、アイルグネフセテマィーエルネルェ」
(人類の力で勝つことこそ人類の繁栄に繋がる)
やはりルーンとは違う訛りが入ってるな。
「イルグネフシュグニデウジュネミン」
(さあ、ネフスジエフを信じなさい)
ああ。チェリク。
「これは人類の戦いだから。人類が勝たないといけないんだ」
「イフシュ」
ネフスジエフが頷く。
『裁きの神の力を必要とするか』
そして轟く声はリュウ兄の故国の言葉だが不思議と脳内にその意味を明らかにせんとする。多分彼の言葉はそう言う存在だからだ。
「ああ。頼む」
『ならば受け取れ』
その言葉と共に黒々とした手が、腕が幾重にも折り重なり巨大な黒い大太刀となる。
「リン兄」
「ああ、ルーン」
ルーンと共に大太刀を握り、一気に
後ずさろうとした
「アァァァァァッ!!!」
そしてその神核を貫いた。
その瞬間、脳内に流れてくるのは
お前に殺された人間たちだってそうだったはずだ。なのにその声を無視したのはお前だろう?
でも……。
「……アルジュ」
アルジュもあそこに沈んでしまったのだ。
「……ん、リン!」
「ちょっと、……あれ!」
カルマやルチアたちの声が聞こえてハッとする。黒い沼が地の底に沈んでいった跡には地肌と共に真っ白い何かがある。いや……いる。
「アルジュ!」
急いで駆け寄り、展開を解けばその身体を抱き締める。
「アルジュ!」
気が付けばルーンもカルマたちも全員揃っていた。そんな中でアルジュがゆっくりと目を開く。
「……して、ぼくは」
「助かったんだよ!もしかして……ネフスジエフ?」
俺たちのすぐそばにネフスジエフと神騎たちの姿があった。
「ネミズィアヒアイウゼドウ」
「そっか……アルジュは人間として造られたから、ネフスジエフの愛しき子のひとりなんだよ」
「でもぼくは
「それでも……俺たちの仲間だよ」
「……いいのかい?ぼくはずっとみんなを騙していた」
「それは俺もだ」
ゼキが口を開く。
「チェリク、ウオイエメルナフィフツン」
ゼキが告げればチェリクがゆっくりとこちらに降り立つ。
「イフシュ、ウオイエメルナフィフツン」
ゼキがチェリクと会話する姿に一同が驚愕する。
「俺はかつて
『ええ――――っ!?』
みな驚いており微笑ましくなってしまった。そしてちゃっかりチェリクのことを入れていることに、チェリクは嬉しそうにネフスジエフと微笑みあっていた。
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