山田さんと吉田さん、苗字ランキングをかけてバトルするってよ

OROCHI@PLEC

山田さんと吉田さん

 ここは地球とほぼ同じだが、ちょっと違う世界。

 この世界には奇妙な法則がある。

 世界に同じ苗字の人が多ければ多いほど、その苗字の持ち主は強くなるという、通称苗字戦闘力

 ある人がどれだけ鍛えたとしても、その苗字戦闘力が上回る相手に勝つことはできない。

 それが世の道理となっており、人はその力に従って生きていた。


 そんな世界の片隅、公園のど真ん中で二人の男が向き合っていた。


「今日こそ決着をつけるぞ、山田さんッ!!」


 鋭く叫ぶのは、吉田さん(29)。

 苗字人口 第11位・約80万人 の男。

 その大きな声で、公園で遊んでいた親子が逃げていった。


「もちろんだ、吉田さんッ!!」 


 対するは、山田さん(28)。

 苗字人口 第12位・約75万人。

 その声で、公園にいた鳩がバサバサと飛び立っていった。


 注 苗字としての吉田、山田と名前としての吉田、山田が紛らわしいので名前として呼ぶ場合は「さん」を付けることとする。


 彼、山田さんは苗字戦闘力が全てではないことを証明しようとしていた。

 二人の苗字人口の差はたった数万人。

 されど、苗字が力を持つ世界ではそれは大きな差だった。


 「それじゃあそろそろ始めようじゃないか!」


 そう吉田さんは言うと、吉田さんのまとうオーラが瞬時に変わる。

 山田さんは、吉田さんがまとう空気を見て冷や汗をかきながら構えた。


「吉田さん……その80万人分の力はあいかわらずのようですね……!」


 吉田さんは鼻で笑う。


「そうだろう、75万人。力は努力じゃ埋められねぇんだよ、この世界はな!」


 そう言いながら吉田さんが地面を蹴る。

 風圧だけでブランコがギィィと揺れた。


「喰らえ! 《吉田式・五万人上乗せナックル》!!」


「名前に人数言うの正直ダサいですよ!!」


 山田さんは紙一重で避けるが、衝撃で砂場が波打つ。


 吉田さんは勢いそのままに畳みかける。

 その頬に、ダサいと言われて流れた涙の跡があった気がするのは気のせいだろう。


「山田さん、認めろ! 吉田のほうが“ちょっとだけ人数が多い”という圧倒的事実を! 俺のほうが強くて偉いという事実も!」


「ちょっとなんですよね!? 圧倒ってほどじゃないですよね!? そこ強調しないでください! あとあんたが偉いわけではないでしょ!」


 とは言っても、山田さんの状況は不利だ。

 二人の苗字人口5万人分のパワー差は確実に効いている。


 山田さんは苦し紛れにスマホを取り出した。


 吉田さん「まさか、助けを呼ぶのか?」


 山田さん「違います! 見てください!」


 画面にはとある統計サイト。


“近年の新生児の苗字傾向:山田が微増傾向”


 吉田さん「はぁ!? なんだそれ!」


 山田さん「未来の山田パワーがじわじわ来てるんです!!」


 吉田さん「何言ってんだ! 未来の話を持ち込んでも意味ねえよ! 大人しく今の人数で戦え!!」


 山田さん「くっ……! じゃあこうだ!!」


 山田さんは胸の前で指を組み、謎のポーズを取った。


「発動!《山田式・どこにでもいますよ謎オーラ!!》」


「自分で謎を付けるな!!」


 周囲の空気がふわぁ……と揺れる。

 特に強そうでもないが、妙に気が散る不思議な波動が辺りに広がる。


 吉田さん「うっ……なんだこの……“身近感による集中力低下”みたいな現象は……!」


 山田さん「これが山田という苗字の真の力! 皆の記憶の中に必ず一人はいる、その親近感!」


 吉田さん「くっそ……確かに……クラスにいた気がする……」


 動きが鈍った吉田さんに、山田さんが距離を詰める。


「いきます!

《山田式・平均平凡ストレート!!》」


「攻撃名が控えめぇぇ!!」


 しかし、鈍った吉田さんにはそれが決定打となり、

 彼は公園の鉄棒にドゴォとぶつかって倒れた。


 砂ぼこりの中、吉田さんがゆっくりと起き上がる。


「……山田さん、やるじゃねぇか……」


「吉田さんこそ……強かったですよ……!」


 二人は戦いに満足したのか、互いの肩を支えるように立ち上がる。


 吉田さん「結局力としては同じぐらいだったかな」


 山田さん「いやいや、今回は運が良かっただけです。また今度 "本当の本当はどっちが強いのかバトル” やりましょう」


 二人は拳を突き合わせ、笑みを浮かべた。


 そのころ、その公園の上空では無数の鳩たちが旋回しながら、二人を見下ろしていた。


「何やってるんだ? あいつらは?」


 一羽の鳩が思わずつぶやく。


「……まあ、人間って、たまに意味不明なことするから」


 近くを飛んでいたもう一羽の鳩が答え、鳩の群れはそれで興味をなくしたのか、今日も何事もなかったかのように飛び去っていった。


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