『運命に導かれ、二人は出会った〜偽大和撫子と危ないスパイの恋』

kiara

第1話

第1話 『運命に導かれ、二人は出会った〜偽大和撫子と危ないスパイの恋』


ある高級ホテルの入口ドアを、早足で歩く

着物姿の若い女性。


彼女――香奈葉(かなは・21)は、魔女のように黒いお下げ髪を揺らし、大きな目に気品を漂わせた顔立ちをしている。


ウインドウドアを抜け、受付へと向かい、

彼女は受付の女性に尋ねた。


「すみません、徳枝家と深山家の顔合わせは、どちらでやってますか?」


「あっ、それは、ここからまっすぐ行って突き当たりの部屋です」


明るい笑顔で対応する若い受付の女性に対し、香奈葉は幼い頃から躾されたとおりに、ぺこりと頭を下げる。


「ありがとうございます」


言われた方向にまっすぐ向かうと、背後からいきなり、大きな男の声が聞こえてきた。


「そこの人、どいて!」


香奈葉はその声に反応し、

反射的に振り向いたが、時はすでに遅し。


彼女はその若い男にぶつかり、体が後ろに倒れ、思わず転びそうになる、


「やべぇ……」


背の高い男はすぐに気づき、手を差し伸べて香奈葉の体を抱きとめる。

香奈葉の背中に回された男の腕の熱が、着物越しに伝わってきた。


一瞬、二人は見つめ合う状態になった。


香奈葉は、その出来事の処理ができず、頭の思考が停止する。気づけば、180cmほどある細身の男と、わずか1cmほどの至近距離にいた。


二人は慌てて離れる。


「あ、すみません」

「いいえっ」


男は黒い帽子を深く被り、黒のジャンパーに黒のジーンズという出で立ち。整った顔立ちだが、表情の変わらないクールな印象の男性だった。


「すみません、怪我はないですか?」


「あっ、大丈夫です」


「それなら、よかった」


男は安堵した様子で、「じゃあ、気をつけて」とだけ言い残し、すぐ立ち去った。


「あっ、はい」

遅れて返事した香奈葉だが、

男が去る時、ほのかなラヴェンダーの香りが漂ってきた。


(なんか、懐かしい匂い。なんだろう)


嗅いだことのある匂いに頭を捻りながらも、香奈葉は目的地に急ぐことを思い出し、「急がないと」と再び歩き出した。


その時、携帯の音が鳴り、

着物のバッグから携帯を取り出すと、

高い女性の声が漏れた。


「香奈葉さん、今どこにいるの?」


「お母さま、今から行きます」


香奈葉は、これから始まる『正しい娘』という役割を演じるために、一呼吸だけ微かに息を吐き出す。


そして、目的の部屋の扉を開けた。


「失礼します」


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『運命に導かれ、二人は出会った〜偽大和撫子と危ないスパイの恋』 kiara @realchange24

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