第7話「脱皮」
***
**最終話:脱皮、あるいは真実の姿**
ドリンクバーの騒ぎも落ち着き、席に戻った俺たち。
彼女がおっとりと立ち上がった。
「ひふみ、ちょっとお手洗いへ行ってきますぅ」
「おう! 行ってらっしゃい」
俺は笑顔で送り出す。
彼女の背中(幅広)が見えなくなると、友人たちが身を乗り出してヒソヒソと話し始めた。
「なぁ……さっきはテンション上がって『美少女だ』とか言っちゃったけどよ」
「冷静に考えると、彼女、あんなにかわいかったか? なんか俺たち、店長の毒気に当てられてたんじゃね?」
友人たちの目が醒めかかっている。
やはり、さっきまでの熱狂は俺の能力による一時的な洗脳だったのか。
だが、俺は涼しい顔でドリンクを啜った。
「なに言ってんだか。変わらないよ、彼女は」
「いや、お前の目は節穴か? さっき店員とお客さんがドン引きしてただろ」
「俺には見えるんだよ。彼女の『本当の姿』がな」
俺は確信を持って断言した。
反対の反対は、いつだって真実なのだ。
数分後。
トイレのドアが開き、一人の女性が歩いてきた。
カツ、カツ、カツ。
軽やかなヒールの音。
モデルのように引き締まったウエスト。
透き通るような肌。
そして、誰もが振り返る完璧なプロポーション。
さっきまでの「100キロの巨体」はどこへ消えた?
まるで重い着ぐるみを脱ぎ捨てたかのように、あるいはサナギから蝶へ羽化したかのように。
物理的に「脱皮」したとしか思えない美女が、俺たちのテーブルへ戻ってきた。
「お待たせぇ~! ちょっとお化粧直してたら、すっきりしちゃった!」
彼女はテヘッと舌を出し、俺の隣に座った。
あまりの衝撃に、俺も、友人も、遠くで見ていた店員も、店長も、時が止まる。
そして。
「「「「「はああぁぁぁぁ!?!?!??」」」」」
ファミレス全体が、物理的に揺れた。
俺の超能力が現実を変えたのか。
それとも彼女が、俺の愛に応えて本気を出したのか。
あるいは単に、すごいダイエットサプリでも飲んだのか。
理由は定かではないが、一つだけ確かなことがある。
俺の彼女は、世界一かわいい。
(おわり)
反対の反対は反対? いや、ただの現実改変です。** *愛は盲目? いいえ、物理です。 志乃原七海 @09093495732p
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