【第1章 蚊編/第3話】 蚊の使命 ― 卵と仲間とデンジャーゾーン

おれは妖精になった気分で、初めての空を堪能していた。

プゥ~~~~ン。


ん?

仲間がいっぱい集まってる?

柱みたいになってるやん……。


とりあえずおれも行ってみよっと♪


どこからともなく声が聞こえる。


蚊(オス):

「合体フォーメーション準備完了しましたっ!

突撃します! 3、2、1!」


ガシッ?!


おれ:

「ちょい待ちッ!何や、後ろからハグ?」


蚊(オス):

「合体ロボ、接続完了!

任務完了しました!」


プゥーーーン……。


おれ:

「……え?」


──フュィンッ…


フェニたん:

「交尾成功ね♡ これが蚊の交尾よ。」


おれ:

「だ、だっておれは男……!」


フェニたん:

「中身は男でも、今のあんたは蚊のメスよ?

しかも“中の上”レベルのね♪ フフッ♡」


──フォンッ……


おれ:

「そ、そんな……心の準備が……。


まぁーえー蚊。痛くも痒くもないわ。蚊だけに。

よし、気持ち切り替えていこ!


精子入りの小包もらったし、あとは卵を育てんとな……。

卵を成長させるには栄養不足かぁー。


あっ……そこで必要なのが血ね。

いっちょ、ちゅーちゅーしたろかいな!」


???:

「おっ、お姉さん今からひと吸い行くんかいな?

うちも行くし、一緒にいかへん?

あ、名乗ってなかったな。蚊藤(かとう)や。よろしゅうに!

あんたは?」


おれ:

「えーっと……蚊ールルイスとでも呼んでくれたら……」


蚊藤:

「なんやその名前! かっこえーやないの!早そうや!」


???:

「ふんふんふんーん♪

私もつれてって?♡

1匹じゃ寂しかったのよ。

私は 蚊山(かやま)。よろしくね♪」


???:

「オラオラァ! さっさと血ぃ吸い散らかして子孫残すで!!

指の側面から、くるぶし、まぶた、唇まで全部いったるわ! ハハッ!!」


おれ:

(お前、ゾンビ映画で最初にやられるタイプやろ……)


蚊山:

「蚊嶋さん、先急ぐとよくないよ〜♡

リラックス、リラックス〜♪」


おれ:

(これ完全に死亡フラグ立ったやん……)


蚊嶋:

「リラックスしてるヒマある蚊ぁ!ボケぇ!!

ほら行くでェ!!」


ぶっとびぃーっ。


……チューチュー。

  チューチュー

   チューチュー。


蚊嶋:

「うんめぇーー!!

栄養ビンビンみなぎっとるやないか!!

脚のシマシマもクッキリや! イカすやろコレ!

な? 簡単やろ? チョロいチョロい。


でも、もう腹パンパンやわ。

さて、そろそろ帰ろ蚊ー……」


おれ:

「蚊嶋!そこはアカン!!

人間の耳付近で飛んだらアカンねやーーー!!」


蚊嶋:

「はァ?寝たまんまやんけ。

びびりす──ぎ?」


ガバッ!!


蚊嶋:

「やばッ!!

ガチギレして布団から出てきよった!!

逃げなアカン……!

……クソッ、腹重すぎて飛べへん……!」


その時ッ━━。


プ…プゥ〜ン……


蚊(オス):

「あ〜、真っ白に燃え尽きた……

もう動けねぇ……。」


おれ:

「あっ! あいつはさっき合体フォーメーション組んだオスやんけ!

今そこの空域は危険地帯や!逃げろ!」


蚊山(鼻歌):

「ハ〜イウェ~イ〜トゥ〜ザ〜

デンジャゾォォーン♪」


おれ:

「歌っとる場合かァァァ!!!!!」


パチンッ(オス死亡)


人間:

「ちっ……こいつじゃなかったか。

絶対に逃さんからな……徹底的にやったる!」


おれ:

「やばい! 人間が本気の捜索モードに入った!

しかも、取り返せもしない血を取り返そうという

思いだけで動く“復讐モード”や!」


蚊嶋:

「だ、ダメや……カラダ重た……」


プ…プゥーーゥンウン〜……


人間:

「はい、はっけぇーーん♡」


蚊嶋:

「み……みんな……世話んなったな……

明日生きてたらでええ……

こいつのタラコ唇……

ワイのかわりに笑い倒したってくれ……

それがワイの……生きたあか……死(し)……」


パチンッ(蚊嶋死亡)


おれ:

「蚊嶋ぁぁぁぁぁーーーーーー!!!


いわんこっちゃない!!

やばい、人間の怒りはまだ治まってない!

一度布団から出た人間の執念はやばいんや!」


蚊藤:

「おい、やばい!見つかったで!」


おれ:

「みんな!光を利用しろ!

白い壁の前にはいくなよ!


秘技──蚊モフラージュ!!」


人間:

「き、消えた?!

蚊は消えへんはずやのに……どこや……」


……チクタク……チクタク。


人間:

「クソ! 明日も早いから寝よ……

腹立つわー、せめて耳にくんなよ……ったく。」


おれ:

「なんとか助かったな……。

蚊嶋……お前の死は……無駄ではなかったよ……


と言いたいとこやが、

この人間、明日顔見て発狂するやろな……

仲間、死ぬでこれ。」


おれ:

「みんな!今がチャンスや!

翌日出社諦めモードの今ならやれる!


まぶた狙うなよ!耳元もアカン!

狙うは足首や!!

“一吸入魂”や!!」


蚊たち:

「血ぃー吸ぅーたろかぁー♪」

「血ぃー吸ぅーたろかぁーってか♡」


おれ:

(どこで覚えたんや……カンペーさんのネタ、ガチやったんか……)


さっさと済ませるか。

シンプルに1回で──


プスゥ……ガッ。


おれ:

「ん?硬い……。

足首ガサガサで刺さらへんがな!

保湿せぇー!


内側なら……。」


プスゥー……

チューチュー♡


おれ:

「うほっ♡

めちゃくちゃうまい。

アオミドロとか比にならん!


でも…引き際大事や!帰るで!


アカン、カラダが重い…やばい、飛べん……。」


(卵を守りながら安全に隠れられる場所……

考えろ考えろ考えろ……!)


ピコーンッ!


(……一見、人間は危険……

 でもうまく利用すれば生き残れる!)


おれ:

「蚊藤!蚊山!

お前ら、必ず守ったる!

蚊ーちゃんの名にかけて!!」


蚊藤:

「は?

まぁええわ、ついてくで。どこ行くねん?」


蚊山:

「いいわよ〜♪ ついてく♡

どこいくのぉ〜?」


おれ:

「比較的都会の新築戸建てや!

将来の子供を想定して作った部屋いくで!

ここなら敵はほぼおらん!」


蚊山:

「新築?蚊ーテン?♡」


おれ:

「まぁええ、ついてこい!」


──うまく隠居生活をして2日後。


おれ:

「う、産まれそう……漏れる。

水辺探すで! 外出るで!


天敵がいない場所は……あれしかない!


空き地に落ちてる謎のタイヤの水たまり!!

あそこは蚊にとって五つ星ホテルや!


よし、タイヤの内側の水辺に産むで!


ぐぬぬぬぬぅ……ふんっ!」


蚊藤:

「こっちも完了や!」


蚊山:

「すっきりしたよ〜♡」


おれ:

「我が子達よ……

触れることも、会うこともできないけど……

みんな元気に育てよ……


最後に約束だ。

耳元だけには行くなよ……!


──よし、次いこ蚊!」


蚊山:

「うんうん♪ また合体フォーメーション組もう♡」


蚊藤:

「蚊ールルイスもいこや?」


おれ:

「え?

おう、今行く……。


あれ?

な、なんか……力が……」


光と共に──消えていく……。


蚊・END



──フュィンッ…


フェニたん:

「お疲れ様♪

2回目にして蚊の人生を全うできたわね。

かなり優秀なほうよ。

生存率5%以下だからね!


さすが、逃げ足はだけは認めてあげるわ♡」


おれ:

「まぁ逃げてばかりの人生……だったからな。」


フェニたん:

「それがあっての今よ。誇りなさい。

……クソみたいな人生に変わりはないけどね♡


まぁ、ついでに言っておくけど、仲間の誘導も悪くはなかったわよ。

昔のあんたじゃ考えられなかったもの。

よくやったわ。


じゃあそれも考慮して、転生させるわね!

次は何になるかなぁ〜♡ フフッ」


おれ:

「え? 人間じゃ……」


フェニたん:

「虫転生ぃーーーースロットぉ♡」


おれ:

「虫って言うてもーてるやぁーーん!!!」



視界が白くなり、思考も曖昧に。


──。


バチコーンッ!!!


……


ん、ここは……?


【第1章 蚊編 / 完】

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【虫転】 ──虫で泣く日が来るなんて、誰が思った? @omaru_author

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