第15話:真帆の告白【11月5日】
― 真帆SIDE(3人称) ―
***
放課後、昴が帰ったあと、真帆は一人、教室に残っていた。
窓の外は、もう夕暮れ。
誰もいない教室で、真帆はそっと机に突っ伏した。
以前なら横に美桜がいてくれた、放課後こんな感じで一人になることも無かった。
でも、美桜は芸能活動を始めてしまった。真帆もそんな美桜を応援している。
だけど、寂しさは別問題だ。
さっきの昴を思い出す、泣きそうな顔で真帆を見ていた。
「でも、俺のこと、避けてる気がするんだ」
その言葉が、真帆の胸に刺さる。
真帆は、何も言えなかった。
昴の気持ちも、美桜の気持ちも、知っているから。
でも、どちらにも応えられない。
真帆にとって、美桜も昴も大切だから。
「……昴くん、好きだったんだよ」
誰にも聞こえないように、呟いた。
1年の頃からずっと。
でも、昴の目には、いつも美桜しか映っていなかった。
それでもいいと思ってた。
昴が笑ってくれるなら、それでよかった。
でも、今は違う。
昴は、苦しんでる。
美桜も、苦しんでる。
そして、真帆も――苦しい。
***
真帆は一人家路につく。
美桜の家はご近所さんで、バス停から自宅の途中にある。
美桜の部屋を見ると明かりがついていない。
得もいえぬ孤独を感じた…
***
その夜、真帆は自室で静かに座っていた。
「はぁ…」
『ため息は、幸せが逃げるよ…』
ため息をつくと、もう一人の“美桜”が現れた。既に死んでるという”美桜”…
幽霊のような存在と言って憚らない。だが、”美桜”は美桜、小さなころから一緒に過ごしてきた無二の親友だ。怖いとか負の感情は湧かない。
『真帆、昴くんのこと……好きだったんだよね?』
「……うん」
『知ってた。本当はずっと前から』
「……ごめんね」
『なんで。真帆が謝るの?謝るのは私でしょ。真帆の気持ちを知ってて私も昴くんを好きになったのだから。』
「ううん、昴くんが美桜を好きなのを知ってたのに…諦めきれなかった…」
『謝らないでよ。私、嬉しかったよ。真帆が昴を好きでいてくれて』
「でも、昴くんは……」
『うん。私のこと、好きだったね』
「……」
『だから、真帆。昴くんと一緒にいてあげて。美桜の代わりに』
「え……」
『私たち-美桜と”美桜”-は、昴くんの隣にいられないから。昴くんを導いてくれるのは、真帆しかいない』
「そんな……」
『お願い。昴くんを、守ってあげて』
真帆は、涙が止まらなかった。
”美桜”が真帆の中にいるようになって、”美桜”の感情は真帆に伝わっていた、どれだけ昴が好きなのか、切ないのか、身を焦がすような恋、無償の愛というのがどういうものなのかを真帆は知った。その想いは、真帆の感情にも働きかけていて、自身の想いも抑えられなくなっているほどだった。
それが解るだけにこの”美桜”の言葉はとても切なかった。
『お願い…』
繰り返す “美桜”の声は、優しくて、切なくて――まるで、別れの言葉みたいだった。
***
その夜、真帆は昴にメッセージを送った。
「昴くん、今度、話せるかな?」
すぐに返事が来た。
「もちろん。いつでも」
真帆は、スマホを胸に抱きしめた。
“美桜”のお願いを、叶えるために。
そして、自分の気持ちに、少しだけ正直になるために。
― “美桜”SIDE(1人称) ―
真帆は私の親友だ。
真帆の家は私の家にほど近く、誕生日も近い。同じ病院で生まれたこともあり親同士の仲も良く一緒に育ってきた仲だ。
真帆はとても面倒見がよく、明るく、気が利く子で、人見知りだった私を良く助けてくれた。
元気が良すぎて、失敗して、関係ない私まで良く怒られた。
私にとって、太陽みたいな存在。それが真帆だ。
運命のいたずらか、幼稚園から高校まで、同じクラスでなかった事すらない。
高校になって、真帆はある男の子を好きになったみたいだった。
最初、何かを隠している素振りだったが、自ら気になる人がいると言ってきたのを覚えている。
その男の子は、選択授業で同じになったと言っていた。
アニメやコミックの話が合ったらしい。
私は恋愛にあまり興味がないというか、怖かったので、興味がなかった。ふんふんと相槌を打つだけだったと記憶している。
「怖い」というのは、昔から告白されたり、馴れ馴れしく近寄ってくる人が多く、人見知りだったこともあって恐怖心を覚えてしまっていたからだ。
だけど…高校2年に進級したとき、講堂への移動で後ろから押されて転びそうになったところを、昴くんに助けて貰った。昴くんを見たとき、自分でも解らないけど、どうしようもなく惹き付けられた。
同じクラスだと知って喜んだし、隣の席になって地に足がつかない感覚を覚え、それは初めて抱く感情だった。
真帆が昴くんを好きだったことは後で気づいた。いい加減な相槌をしていた報いだと思う。
真帆はずっと好きだったのに、私が後から好きになったのにも関わらず自身の気持ちを抑えて応援してくれる感じだった…
そんな真帆だから…幸せになってほしい。死んでしまった私の分までも。
***
翌日、放課後。
屋上にツヴァイ-昴-くんが真帆を連れ出した。
風が少し冷たくなってきた季節。
二人は並んでフェンスにもたれかかっていた。
「昴くん、昨日は……ごめんね」
真帆が口を開いた。
「いや、俺こそ……ちょっと感情的になっていた、すまなかった。」
ツヴァイ-昴-くんは視線を遠くに向けたまま答えている。とても複雑な表情をしている…私はこんな昴くんの顔を見たことがない。
「美桜ちゃんのこと、心配なんだよね」
「……うん。なんか、俺の知らない寿さんがいる気がして」
「それは……昴くんが悪いわけじゃないよ」
「そうだろうか、何か嫌われるようなことをしたんじゃないかと…」
「…」
「何も解らないから、挽回することも何もできない…その間に寿さんはどんどん遠くへ行ってしまう。」
真帆は、ツヴァイ-昴-くんの横顔を見ている。
その目は、どこか遠くを見ていた。
「昴くんのこと、嫌いになったわけじゃないと思う」
「じゃあ、なんで……」
ツヴァイ-昴-くんの声が少しだけ震えた。
「俺は何を間違えたんだろうか、なんで、寿さんは遠くへ…、俺のせいでないならなんで…」
ツヴァイ-昴-くんが嗚咽を漏らす。
「俺は告白して…まだ返事も聞けてない、断るなら断ってくれ、嫌いなら嫌ってると言って欲しい」
ツヴァイ-昴-くんの慟哭。私は耳を塞ぎ逃げ出したかった
(『昴くん……ごめんね。私は、もう……』)私は真帆の頭にだけ聞こえる声でつぶやいた。
真帆は私の声に一瞬身体を震わせると、そっと昴の手に触れた。
「昴くん……美桜ちゃん、頑張ってるんだよ。すごく、すごく頑張ってる」
「……うん」
「だから、昴くんも、耐えて。美桜ちゃんのために」
「耐える?」
「そう…いつか解るときが来ると思うから。」
真帆は涙を浮かべ、ツヴァイ-昴-くんに訴える。
「…」
だめだ、ツヴァイ-昴-くんに真帆の言葉が届かない。
「昴くん、私は、あなたが好きです。」
ツヴァイ-昴-くんが目を見開く。
「…ずっと好きでした。」
「なにを…」
(『真帆…』)
「1年の時、選択授業で一緒になってから、ずっと好きでした…」
真帆の口が震えてる。
「昴くんと話すとき、嬉しくて…嬉しくてしかたありませんでした。」
「美桜ちゃんのことが好きだって知ってたから」
「ずっと告白できなかったけれど、横にいられればいいと思っていたけれど。」
「今、告白します、真帆は、昴くんのことが好きです」
真帆は笑顔に涙を溜めて宣言のように告白をした。
「…だ、だけど、俺は…」
「わかってる。だから…私は耐えます。全ての結果が出るまで、耐えます。」
(『真帆…』)
「だから、昴くんも耐えて下さい。」
私は真帆の強さを見た、なんて凄いんだろう。
真帆の涙に驚いたツヴァイ-昴-くんは、頷いて真帆の手を握り返した。
その手は、少しだけ震えていた。
真帆は、微笑んだ。
その笑顔は夕日を受け輝いていた。
ほんとうに真帆は私の太陽だ。
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