僕は死んだけど
perchin
「僕は死んだけど」
僕は死んだようだ。
心臓が止まった。血液循環が止まり、体温が低下していく。
3時間くらい経っただろうか。筋肉がこわばっていく。
3日が経過した。皮膚には死斑が消え始め、体が緑色に変色し始めた。目が濁り、口や肛門が膨れてきた。
腸内細菌が酸素のない環境でタンパク質や脂肪を分解し、硫化水素・アンモニア・揮発性脂肪酸などの、臭気の強いガスを作り出しているようだ。
4日目。嫌気性バクテリアがタンパク質・炭水化物・脂肪を分解して、メタンや二酸化炭素、硫化水素といったガスを発生させている。ガスが臓器や体腔に溜まって膨張が起き、腹部や胸部が膨れ上がり、体表が張り詰めている。
表面の皮膚や血管がガス圧で引き伸ばされ、皮膚には気泡ができ、色は緑褐色に変色してしまった。
7日目。大量の体液が流出し、周囲の土壌が濡れ色に変わっている。気がつくとたくさんの虫が集っていた。腐敗微生物と昆虫の両方がタンパク質・脂肪を速やかに分解・摂食するため、僕の体の質量は急速に減少していく。
長い時間が経った。僕の体からは軟組織の多くが失われ、残るのは部分的に乾いた組織や骨、軟らかい結合組織だけだ。体はしぼみ、皮や筋膜の一部が切り残されている。骨の露出や、露出部分の黒ずみ・乾燥化が進んでいる。土壌中に流れ出した有機物(タンパク質、脂肪、窒素化合物)が微生物によって利用され、分解産物は土に取り込まれ、栄養循環が起こる。僕の周囲の土壌は栄養分が増え、草が成長している。
一年以上経過しただろうか。僕は、骨と乾いた結合組織だけになった。僕の周囲の草は生い茂り、骨となった僕を覆い隠している。
僕が死んで何年経っただろうか。とうとう骨も、土中の微生物や酸素、物理的力で徐々に崩れ始めている。僕は栄養の再配分点となり、窒素・リン・炭素などが土や周辺生物に戻っていく。こうして僕は、草地や森林の生産性に寄与することとなった。
僕は死んだけど perchin @perchin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます