お隣の清純配信者は、恋を知らない。
万和彁了
第1話 お隣さんは清純系配信者!
いつも通りの日常。敷かれたレールの上で課題をこなす日々。なんの興味もない学問。大学生なんてそんなもんだろ。
「真壁理人くん」
「はい」
俺の名が教授から呼ばれた。提出してたレポートが教授の手から俺に返却された。
「素晴らしい内容だった。このレベルなら実務家としても即戦力だろう。法律の効果、適用要件、考察。何を見ても文句なしだよ」
「ありがとうございます」
教室のみんながざわつく。この講義のきつさは有名だった。教授は学生に一切手心を加えないことで有名だ。羨望の目で見られているのに少し落ち着いた。この成績なら両親も満足してくれるだろう。だが。講義の終わりに教授に捕まった。
「なんでしょうか?」
「君のレポートなんだがね」
「はい。なんでしょうか?」
「内容は完璧だ。だが法曹志望者にある夢が全く見えない」
そんなことを言われても困る。そもそもなんで内容が良かったのにこんなことを言われるのかわからなかった。
「君は日本で一番偏差値が高い大学でさらにトップを取っているのに、まったく野望も夢も感じられない」
「そう言われても……」
「法学とは現実と向かい合う学問だよ」
「なら私情を挟むのはよくないのでは?」
「だからだよ。夢がないと現実に勝てない」
メルヘンなことを言っていると思ったけど、道野教授の目は真剣だった。聞き流しちゃダメな話なんだと思った。
「夢見がちではいけない。だけど夢がなくては人を知ることはできない。人と人の間にあるのが法なんだよ」
「だけど特に夢と言われても、俺は両親が望んだからここに来ただけなんです」
「そうだね。君はご両親の経営している弁護士事務所を継ぐために法曹になることを目指している。それは否定はしない。だけどもっと人に興味を持った方がいい」
「でもどうやって?」
「まあ恋愛でもしたらいいんじゃないかな?」
「恋愛ですか?」
「まあ軽い冗談だよ。だけど人を知るなら恋愛が一番だろう。まあ少し夢を持つことを心の片隅に置いておいてくれ。期待しているよ真壁君」
そう言って教授は俺を解放した。俺は恋愛という言葉がよくわからない。それは一体なんだのだろうか?疑問しかなかった。
サークル活動で恋人を見つける話はよく聞く。今日はそんなサークルの飲み会に出ていた。
「なに?まじめな真壁がとうとう恋愛したいと?!ウケる!」
佐藤先輩がケラケラ笑ってる。
「したいんじゃなくて知りたいんです。知らないといけないらしいので」
「よくわからないこと言ってるな。別に女子と適当に話してデートでもしてみればいいだろう。お前顔いいし。金あるし」
「はぁ。そうですか。うーん」
やっぱりよくわからない。とりあえずよく知ってる女子の西城
「なあ西城」
「なに?理人もゲーム混ざる?」
西城たちは男女でなんかのゲームで盛り上がっていた。
「お前恋愛経験豊富だろ?」
「えーまあ。うん。それなりには」
なんかすこし顔に影がささったように見えた。
「恋愛ってなんだ?」
「なにその哲学みたいな問い。イミフなんだけど」
「道野教授に恋愛でもしてみたらいいと助言された」
「それは冗談じゃないかなぁ?うーん。でもそう言うのってこう自然に相手に好意を寄せるものだよ。好きな人いるの?」
「いや。じゃあどうやったら人を好きになるんだ?」
「宇宙人かよ。ほらうん。こんな感じ」
西城が潤んだ瞳で俺を見詰める。曖昧な笑みに何かを期待するようなニュアンスが感じられた。
「ドキッとしない?」
「え?」
「あーこいつ駄目だ!あたしみたいな美人前にしてドキッとしないのまじで男失格だよ!」
そこまで言われちゃうのか。俺はどうやら他人とは違って劣っているらしい。
「まあほら。そのうち。好きになってくれる人とか見つかるはずだから!その時まで待てばいいんじゃないかな!」
「そう。うーん。わかった」
俺は西城から離れた。一人悩む。また先輩に話しかけられた。
「西城いいじゃん。なんか駄目なの?デートとかしたくなんないの?エッチしたいとか」
「特には」
「まあ西城は遊んでる感高いから童貞には荷が重いかもな。ならあれだ。まずは理想のデートみたいなものにあこがれて見たらいいんだよ」
「理想のデート?」
「俺が推してるYoutuberいるんだけどさ。この子!まじ可愛いの!」
先輩がスマホを見せてくる。そこには黒髪ロングの美人さんがリスナー相手に配信してた。
「【い・よ・り】ちゃんっていうんだけどさ。この子、投げ銭した奴とデートしてくれるんよ。そのデートを配信してるんだけど、まじでかわいいんよ!」
「投げ銭でデート?」
「俺も投げまくってる!だけど当たらないんだよなぁ。いつかは……!」
不思議なサービスがあったもんだな。だけど参考にはなるかな。帰ったら見て見よう。
家に帰って速攻【い・よ・り】のチャンネルを見に行った。アーカイブにデートの動画があった。綺麗な女の子といかにも普通の男がデートしている。一緒にお茶したり、アミューズメント施設で遊んだり。夜景見たりしてる。
「これが理想のデートなのか?」
男の人は恥ずかしがりながらもすごく楽しそうにしていた。いよりも朗らかで優し気な笑みを浮かべている。さっきみた西城の笑みのようなニュアンスがあった。
「ふむ?これがドキッとする仕草ってやつなのかな?男性側は満足度が高そうだ」
デート風景を見終わってから。水を飲みながら考える。そしていまいよりがライブ配信していることに気がついた。
「ふーん。これがYoutuberのライブ配信という奴か」
なんかコメント欄が盛り上がっている。¥10000とか¥5000とかの表示が飛び交っている。いよりは楽し気に話している。
『デートの度に緊張します。まだ慣れないんです……やっぱり恋愛経験ないとダメなのかなぁ?』
:そんなことないよ!¥1000
:いよりんはそのままでいい!¥3000
:清らかでいて欲しい¥10000
「なんでこんなに儲かってんだ?恋愛経験ないってことはデートの質が低いってことじゃないのか?」
俺はよくわからなくなっていた。だけどそもそもこのチャンネルが売れてる理由を解析するのが仕事ではないことを思い出して、もう抜けようかなと思った。
『そうだ!新しい服買ったんですよ!今干してるんですけど!可愛いんですよ!』
そういって画面の中のいよりがカメラを持ってベランダに向かった。そしてカメラを近くのテーブルに置いた。短パンのいよりが部屋の中からベランダに手を伸ばす。
:ブラがデカい!¥10000
:白い!¥10000
:きよい¥10000
「馬鹿なんじゃねーの。ってあれ?」
いよりが服を取ろうとして、ブラジャーを隣の部屋に飛ばしてしまった。そのときだった。俺の部屋のベランダからばさりという音がした。カーテンを捲ってベランダを覗いた。
「ぶらじゃー?」
『キャ!隣の部屋に落としちゃった!?』
:ぴんちきた?!¥20000
:うらやま¥3000
:草生え散らかしてもはやジャングルwww¥20000
『すみません!取りに行ってきます!隣の人優しいといいなぁ。じゃあ今日は抜けますね』
:いってらー
:またね
:隣の奴うらやま
そしてチャンネルは終わった。そして俺の部屋のベルが鳴った。
「え?」
俺はインターホンを覗く。そこにはいま配信していたいよりの姿があった。
「……どんな確率なの?」
俺はとりあえず部屋のドアを開ける。
「……あの。洗濯ものですか?」
俺がそう言うと、いよりがこくりと首を振った。すごく恥ずかしそうに頬を赤く染めている。実物は配信よりも綺麗で可愛らしい女性だった。スタイルもよく。凹凸の激しいグラマラスな体をしている。
「あの。取ってもいいですか?」
「どうぞ」
俺はいよりを部屋の中に案内する。そして彼女はベランダにめがけて小走りして、ブラを拾ってポケットにしまった。
「すみません。今度お詫びしますね。ってえ?」
いよりが俺のパソコンの画面を見ている。そこには彼女のチャンネルが表示されている。すぐにいよりが真っ青な顔になる。
「あの。見てました?」
「はい。見てたけど」
「だ、誰にも言わないでください!!」
いよりは血相を抱えて俺に頭を下げてきた。
「そ、その!こういう事情とは言え男性の部屋に入ったら友達に叱られちゃうし、リスナーに怒られて炎上しちゃうので!」
「大変なんだね」
「それはそうですよ!私のチャンネル見てくれてるならわかりますよね!!」
今日初めて見たんよ。そう言おうと思ったけど、言い訳にしか聞こえなさそうなので黙っておく。
「あの」
「なに?」
「どうでしょう。デート一回でチャラとか?」
「デート?」
「だめですか?どうしたら黙ってくれますか?」
別に誰かにペラペラ話す気なんかもとからない。だけどデートと言ったか?ふと教授の言葉を思いだす。それにこの子は理想のデートをしてくれると先輩が言ってた。
「じゃあデートします。それでいいですか?」
俺はそう言った。
「よ、よかったぁ……ふぅ」
安心したらしい。
「じゃあ来週の土曜日とかどうでしょうか?」
「うん。わかった。それで」
「はい。では土曜日にドアの前で待ち合わせで!」
そしていよりは部屋から出ていった。デートが決まった。よくわからないけど、これで恋愛できるのかな?まあやってみよう。どうせ失うものなどないのだから。
お隣の清純配信者は、恋を知らない。 万和彁了 @muteki_succubus
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