短編 ヒーローになるまで。

トクメイ太郎

ヒーローになるまで。

「お父さん! やっぱり俺、前をみないでつっぱしるレッドよりみんなを裏で支えるブルーの方がかっこいいと思うんだ!」

「そうか。お父さんは、あの突っ走る感じ好きだけどな~」


 映画が終わり、観客がみんな帰って行くまで席で話し込む。

 お父さんは、そのぐらい映画が好きな人だ。

 特に特撮が好きだったこともあり、小学生低学年の時からよく映画館に連れて行ってもらえることもしばしば。

 その影響もあってか、特撮オタクに気がつけばなっていた。


 小6の時からヒーローに憧れて、家族や友達の前で「絶対、特撮俳優に将来なってやる!」と豪語するぐらいだ。

 大体の人がそれを聞いて笑う。

 小学生の時は全然気にしていなかった。だけど、中学に上がってから友達に言われた言葉。


「拓人って名前負けしてるよな」


 友達は軽い気持ちで言ったんだと思うけど、胸にぶっささった。

 たしかに、個性らしい物もない、これと言った特技もない。

 そんな時、特撮俳優のインタビュー動画を見た。その俳優は、けん玉が得意で実際めちゃくちゃ上手かった。

 俳優になるにはまず個性がいる!個性を作らないと。


「人と違う事を始めたい!」


 けど、何を始めていいかわからない。

 サッカー部に入ったり、野球部にも入った。美術部にも。

 でも大体、みんな同じ事をやっているから個性にならない気がして、いつも途中で辞めてしまう。

 時間だけが過ぎていき、中学三年生の夏頃。

 スーツアクターと俳優の対談動画を見た。


「スーツアクターは、体張って大変だけど、色んなヒーロになれるから楽しいんですよ。あと、俳優さんみたいな独特な個性も要らないですし」

「これだ!」


 スーツアクターが、どれだけ大変でどれだけ体力がいるのかその時の俺は全然しらなかったけど、ピンときた。


「お母さん! 俺、俳優やめてスタントマンになる!」

「あんた何言ってるの! この間も若いスタントマンが怪我したってニュース見たわよ。辞めときなさい!」

「もう決めたから。高校入ったらちゃんと運動部にも入るし、バイトもして自分で養成所に通うお金も稼ぐ!」

「勝手にしなさい!」


 怒られるのはわかっていた。でも、ここでやっぱりやめると言い訳すると、今度こそダメになりそうな気がする。

 ネットで調べると、スーツアクターになるには、動体視力、瞬発力、反射神経など色々な情報が書いてあった。

 まず、瞬発力や動体視力、あと心を鍛えたい。

 だから、高校に入学したら、ボクシング部に入部すると決めていた。

 いざ入部して試合をすると、それまで無色だった相手選手のオーラが赤色に変わる。

 ニコニコしていた相手が、人を殺すような顔になるのだ。


(今日も負けるのか)


 心を鍛えるため始めたが、殴られるのは結構きつい。

 ヘッドギアをつけてはいるが。

「拓人、いつも、ボコボコなのにすぐ立ち上がって大丈夫なのか?」

「大丈夫」


 セコンドの監督が心配して、声をかけてくれるが、夢のためだと思うと力がみなぎってきて立ち上がれる。

 バイトもそうだった。

 通帳のお金が増えていく度に、夢に近づいている実感があった。


「やっとだ! やっと養成所にいける!」


 行きたい養成所は決まっていた。動画で俳優とインタビューをしていたスーツアクターのいる養成所だ。

 入学金と授業料は、新車の高級な軽自動車を買えるくらいの額。

 はたかたみたら十分高いけど、夢のためなら安いものだ。

 初めての授業、早めに教室に行ったが、すでに数人いて、ストレッチや筋トレをしている。


「うそだろ」


 自分が一番だろうな。教室に入る前はそんな気がしていた。

 だって授業が始まる30分前だし、そもそも最初からみんなそこまで意識高いだろうと思わないのが普通だ。


(みんなに遅れる!?)


 慌てて自主トレを始める。すぐ先生が入ってきて授業が始まる。

 殺陣やアクション、演技指導まで色々事を学ぶ。

 でも、先生いわく、それらがしっかりできていても協調性がないなら、いますぐやめなさいだった。

 安全性第一のこの仕事は、現場監督者の指示をしっかり聞いて協調性がないとやっていけないらしい。

 思い立つと行動してしまう俺の割と苦手な所だ。

 いつもそうだった。

 スーツアクターになりたいとわがままを言った時、バイトを始めて時、ここに通う時も、周りの意見をあまり聞かず、自分勝手に動いていた気がする。

 一年がたった時、先生にとある事を言われた。


「拓人くんは上手くなってきたせいか、周りを意識しないで行動するところあるから特撮ショーとかのスーツアクターとかやってみたら? 見える景色が変わるかもよ」

「わかりました」


 尊敬していた人からのアドバイス。すんなり受け入れて、戦隊ショーのスーツアクターのバイトを始めた。

 悪役が倒れるタイミングに合わせて攻撃したり、流れる音声に合わせて演技するのは、難しい。

 戦隊ショーのバイトはチームワークがいるし、かなり神経を使う。

 スーツを脱ぐと、みんなニコニコして話している。だけど、いざスーツを着ると、みんなオーラが変わる。

 もちろん強調性はある。だけど、一人一人が役柄のオーラを纏ってる。その力強い演技をみていると、負けそうになる。


(やっぱり現場と授業は全然違う。俺なんてまだまだだ。頑張らないと)


 数ヶ月が過ぎたある日。

 バイトの先輩が声を掛けてくれた。


「拓人くん、最近調子いいね。そろそろ俺卒業だからブルー任せられそうだよ」

「ほんとですか! 俺頑張ります!」


 嬉しい半分、怖い半分だ。

 いつも、色々アクションのやり方を教えてくれていた優しい先輩の代わりをしないといけないとなると、重圧がすごい。

 後日、大きなイベントが、俺がバイト先している遊園地で開かれることになった。

 監督と俳優が来て対談をした後に、俺達がショーをするという大型イベント。

 緊張で手を震わせながらブラックのスーツを着ている最中に、ブルーの先輩に声を掛けられた。


「いつもどおりで頑張ろうよ」

「は、はい」

「肩の力抜いてね」


 先輩は俺の肩をもむ。

 戦隊ショーは色んな人達のフォローもあり、無事成功した。


「ちょっと君こっちきて」

「な、何でしょう……」


 イベントに来ていた監督さんに声を掛けられて緊張する。


(俺なんかしたかな? 怒られそう)


「そんな固くならなくてもいいよ。君の動き柔軟ですごいよかった。まだアクションはいまいちだけど、仲間を信頼しているのが伝わってきたし、キャラクターに愛を感じたよ」


「ほんとうですか! ありがとうございます」


 初めて言われた言葉は、嬉しいの言葉では表せないくらい嬉しい。

 監督の言葉が嬉しくて、辛いときは監督の言葉を思い出してバイトと授業を頑張って一年くらいたったときの事。先生から声を掛けられた。


「拓人君さあ、今度この会社の面接受けてみない? 面接というかオーディションなんだけど。なんか君の事すごい気に入ってるらしくて」


 ポスターを見ると、見覚えのある人が映っていた。

 それはあのときの監督さんだった。


「受けます!」

 

俺は後日、その監督が所属している事務所にいってオーディションを受けにいくと。


「へー。君、それでスーツアクターになりたいと思ったんだ。それだけ運動神経いいならもっとアクション俳優とかすればいいのに」

「僕は独特な個性がないのでむりですよ。それにヒーローになりたいので」

「そうなんだ。面白いこと言うね。それじゃあ現場でまた会おうよ」

「ありがとうございます」


 後日、合格通知が来た。

 俺は、養成所を自主退学して、監督さんの事務所に見習い所属になった。

 見習いといっても仕事はプロ同様にしないといけない。

 初めてのプロの現場に向かう。

 すると、来年から始まる戦隊のブラックのスーツ着るように言われた。


「またここからか」


 更衣室着替えてから撮影現場に向かう。すると、ちょうど変身前の俳優さんが銀色のブレスレッドを使い変身シーンの撮影をしていた。


「変身!」

 俳優さんが変叫ぶ姿を見て、昔を思い出す。


(俺もあっちに立ちたかったんだよなぁ)


 俳優さんが休憩場所に行くのと入れ違いで、ADさんに呼ばれる。


「今行きます」


 まだ特撮俳優を諦めた訳じゃないけど、この気持ちを忘れなければきっといつかたどり着ける気がする。

 あの時憧れたヒーローに。

 だから、俺はヒーローになり続ける

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