第6話 「ローマの休日」のスローリーディング その6
◎場面3
ローマ在住のアメリカ人記者たちがポーカーのテーブルを囲んでいる。
ここからアメリカン・ニュース社のローマ支局に勤めるアメリカ人記者ジョー・ブラッドレー(グレゴリー・ペック演じる)、ジョーの親友でC・Rフォトサービス所属のカメラマン、アーヴィング・ラドビッチ(エディ・アルバート演じる)が登場する。
(英語のセリフ)
〇仲間1: Bet five hundred.
〇ジョー: Five hundred. How many?
〇アービング: One.
〇仲間1: I'll take one.
〇仲間2: Three
〇仲間3: Four, boy.
〇ジョー: Two for papa.
〇仲間1: Five hundred more.
〇ジョー: Without lookin'.
〇アービング: Five hundred; and, er raise you a thousand.
〇仲間1: Two pairs.
〇ジョー: Oh, well I got three shy little sevens.
〇アービング: Er, a nervous straight Come home, you beauties. Now, look at that: six thousand five hundred-ah, not bad, that's ten bucks. Er, one more round and I'm gonna throw you gents right out in the snow...
〇アービング: I got to get up early: date with Her Royal Highness who will graciously pose for some pictures.
〇ジョー: What do you mean, early? My personal invitation says eleven forty-five.
〇仲間1: Couldn't be anything to do with the fact that you're ahead?
〇アービング: It could.
〇ジョー: It works out fine for me: this is my last five thousand and you hyenas are not gonna get it. Thanks a lot, Irving.
〇アービング: Yeah.
〇ジョー: See you at Annie's little party in the morning.
〇アービング: Ciao, Joe.
〇ジョー:Yeah, ciao.
〇アービング: Alright! a little seven card stud.
〇仲間1: Ok with me.
(私訳)
〇仲間1: 500リラ 賭ける
〇ジョー: 俺も 500リラ。何枚いる?
〇アービング: 1枚
〇仲間1: 俺も一枚
〇仲間2: 3枚くれ
〇仲間3: 4枚
〇ジョー: 親に2枚
〇仲間1: あと500
〇ジョー: それに乗った
〇アービング: 500、いや俺は 1000 にせり上げよう
〇仲間1: ツーペア
〇ジョー: こっちは慎ましく7のスリーカード
〇アービング: こっちはくよくよとストレート (掛け金を集めながら)みんなもどっておいで さあどうだい 6500リラというと10ドルか 悪くないな あともう一回でお前さんたちを表の雪に放り出してしてやるからな
〇アービング: 俺は早く起きなきゃならないんだ。王女様とデートでね。俺の写真に優雅にポーズを取ってくださるのさ。
〇ジョー: 早いってどういうことだ? 僕の招待状には11時45分ってなってるぜ。
〇仲間1: まさかお前が勝ってるからってわけじゃないだろうな?
〇アービング: かもね
〇ジョー: 僕はここで降りる。これは最後の5000リラでね。君たちハイエナに取られるわけにはいかないんだ。どうもありがとう、アーヴィング。
〇アービング: ああ
〇ジョー: 明日の朝、アニーのパーティでな
〇アービング: チャオ、ジョー
〇ジョー: チャオ
〇アービング: よし、セブンカード・スタッドでやろう
〇仲間1: そうしよう
(チョットひとこと)
① テーブルの上には灰皿、飲み物の入ったグラスと掛け金の札。
彼等は軽口をたたきながらポーカーをしているが、このシーンではポーカーの手について面白い表現が出てくる。
ジョーが言う。
three shy little sevens
数字の7がシャイということだが、私の下手な訳で言うと「内気で控えめな7のスリーカード」というところか。
その言葉を受けてジョーの相棒のカメラマン、アーヴィングは勝ち誇ったように、ジョーのセリフを受けてこう言う。
nervous straight「ナーバスなストレート」
② さらにアーヴィングはこう言う。
one more round and I'm gonna throw you gents right out in the snow
「もう一回やったらお前さんたちを外の雪の中に放り出してやる」
このセリフは「ローマの休日」が撮影された時の状況を考えると、ひょっとすると監督のウィリアム・ワイラーのアドリブかもしれない。
「ローマの休日」はローマでのオールロケで撮影されたが、ロケが行われた1952年の夏はローマにおいて20世紀で最も暑い夏の一つとして記録されるほどの暑さであったそうな。
外は雪どころかサウナのような猛暑であり撮影スタッフは暑さに苦しめられた。
サマードレスのヘプバーンはまだいいとしても、屋外のシーンをネクタイにスーツ姿で通したジョー役のグレゴリー・ペックは終始さわやかな表情を崩さなかったが、さぞかし大変だったことだろう。
③ 更にアーヴィングの最後のセリフ
Alright! a little seven card stud.(よし、セブンカード・スタッドでやろう)
セブンカード・スタッドとは7枚のカードの中から5枚を選んで役を作るポーカーで、カードが7枚あるので通常のポーカーよりも強い役が作りやすい。
また、7枚中4枚は表向きに配られて他のプレイヤーから見える状態であるのも特徴。
④ アメリカ人の記者クラブではポーカーだが、日本の記者クラブでの時間つぶしはかつてはマージャンと決まっていた。
部屋の中はたばこの煙が充満し、軽口が飛び交うのはローマも日本も同じようだが、古い人間にとって記者クラブといえば思い出されるのはNHKテレビのドラマ「事件記者」。
1964年の前回の東京オリンピックの前後、当時花形職業であった新聞記者を題材にしたドラマは大ヒットした。オープニング曲はドラマチックで、子供だった私も親と一緒に「ガンさん」や「べーさん」というニックネームを持つ記者たちの物語を興味深く見たものだ。
時は流れ、「事件記者」に出演していた俳優たちも今では大半が故人となってしまった。
ここでアーヴィングに捧げて一首。
「10ドルを稼いだナーバスストレート明日は王女とカメラでデート」
「ローマの休日」のスローリーディング @evans3
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