第3話 オカルトサークル
「ふぁ〜」
「相変わらずテストヤバかったな」
「…出席すればいいんだから、いいんだよ」
伸びをしながら答えれば林は苦笑していた。
「見て。林くんだ」
「なんで不思議くんと一緒にいるんだろうね」
「ほら、林くんって優しいから。ひとりぼっちの子を放っておけないんだよ」
丸聞こえの女子の会話にはもう慣れてしまった。最初は林が女子に弁解してくれたりもしたが騒ぎを起こしたくないし、加えて女子からの妬みが進行したので無視してもらうように頼んで今に至る。
まあ、大学初日に他の人には見えない流と話をしていたのを見られてしまった自業自得ではあるのだけど。
高校は通信だったから家で流と話をするのも当たり前で、つい外でもやらかしてしまったのだ。噂好きな大学生たちには僕の行動がすぐに広まって不思議くんと呼ばれるようになるのは時間の問題で。
しかし、女子の発言にも同感するところもある。林には友人も多いだろうに何故か僕といる時間が長い。華型のアーチェリー仲間といたほうが過ごしやすいだろうとやんわり提案したところ、
「いや。沖嗣と居た方が気楽だから」
との返答が返ってきたのだ。根暗の僕といるのが気楽なんて林は物好きなのだろうか。
林と世間話をしながら大学の突き当たりにあるサークル部屋の自動ドアの前に立つ。ドアには時代錯誤な半紙に「オカルトサークル」とセロハンテープで張り付けられている。
これは林が乗り気になって半紙に習字で書いたものだから仰々しさと怪しさの漂う謎のサークル(実際は部活動)と囁かれる羽目となってしまった。
オカルトサークルは僕を含めて4人しかいない、オカルト第一のそこら辺のサークルよりもさらに緩い部活だ。なんで設立できたのだと思うほどの。
室内は他の部室よりもやや狭く本当は白色なのに雰囲気作りのために木目調のプロジェクションが施されたテーブルと高さ調節のできるパイプ椅子が四つ置かれた簡素な配置。壁は常に記録モードになってるからタッチペンで書き込みもできる。
「ボンジュール〜!って、また君たち2人でつるんでるの〜?仲良いねぇ〜」
間延びした特徴的な口調と青い瞳にメガネが無駄に似合ってる部長の
ちなみに僕と林はこの街の歴史を紐解く歴史学を専攻している。
「…専攻一緒だからだよ」
「そして仲良いもんな!俺たち」
林はノリがいいから僕の回答なんか気にせず肩を組んで嬉しそうにする。こういう時の表情は大型犬に似ているなんて思ったり。
「そんな2人に朗報だよ〜。これ見て〜!」
ずいっと眼前に紙よりも薄いパソコンを差し出してきたが近すぎて見えない。受け取って距離を離すと、なにやら動画のようだ。
「肝試しの目的で廃墟の旅館に行ったグループが何かに殴られたんだって〜。これって絶対妖怪か幽霊だよね〜」
「…フェイクじゃない?」
「ここの画面の歪みとカメラの切り替え不自然じゃないか?」
最近は電子の進歩がより進んでいるから高度な偽の画像と動画が当たり前のように出回っている。2人には気づかれないようにわずかに視線を横にずらして流を見たが、つまらなさそうに目を細めている。
この様子だとフェイクなのは確定だ。
「もう〜!2人には夢がないなあ〜。何のためにオカルトサークル入ってるのさ〜」
指摘にたまらずといったように口を尖らせて僕の手から取り返したパソコンを大事そうに抱え込んだ。
小野寺は夢みがちというかなんというか、目に見えない不思議系はなんでも信じる。疑うことを知らない超純粋タイプ。オカルトに盲信的、が正解か。
そんな時、最後の1人がようやく自動ドアを潜ってきた。
「おはよ。女子に捕まって遅れた」
「…おはよう」
「八雲、もう昼だよ〜」
サークルのメンバーの1人である八雲
明るい色の髪に片耳ピアスに舌ピというチャラい風貌は童顔を気にしての対策だそう。こんな見た目だけど誰もが知る大手八雲カンパニーの御曹司であり、既に会社の手伝いもしていると聞いた事がある。それもあってサークルにはあまり参加できないやや幽霊部員で本人曰く幽霊は信じてない。
「八雲は信じてくれるよねぇ〜!?」
小野寺は僕たちに見せたのと同じようにパソコンを差し出している。
「何だよ…ってうわぁぁ!」
不気味な音楽からしてテーブルから物が落ちてきた場面のあたりだろう。
八雲はそんなに驚くかってくらい飛び上がって壁に背中をぶつけて悶えている。
…痛そう。
「相変わらず八雲はビビりだなぁ〜。日常生活でもの落ちた時とかどうしてんの〜?」
「ふ、普通は物なんて落ちないだろ!?あと、そんなくだらないもの見せるなよ!」
いや、家の軋みとか物音くらいするでしょ。それを言えば癇癪起こした子供みたいに暴れそうだから言わないけれども。
「お前のお仲間は愉快だよな。オレよりうるせぇぜ」
みんながいる前だから返事はできない。なのでまた睨みつけた。流の方が問題児だよ、と。
「またオレに文句つけただろ!?もっとオレを敬えよ!おい、そこに正座しろ、家族のありがたみを説いてやる」
毎日毎日飽きもせずにこのハイテンションでいられるのはどうしてなのだろうか。流には特別な力が宿ってるとか?未だ正体の判明しないこのエゾテンならばあり得ない話でもない。
まだ続くお説教にうんざりして目線を前に移せば八雲によって小野寺が詰められていた。
「なんでこんな怖いもん見せたんだよ!」
「いや〜オカルトサークルなんだから正体を突き止めるためには見るしかないでしょ〜」
「夜寝れなくなったらお前のせいだからな」
「そこまで怖いの〜?なんでこのサークル入ってるんだよ〜」
「内申のためだよ!じゃなきゃこんな胡散臭い緩いサークルに入るわけないだろ!」
「オレからのありがたい話を聞いてんのか!?沖嗣そこに直れ!」
あっちもこっちもわちゃわちゃしていて目が回ってきそう。
林はいつの間にか椅子に座って2人の様子を楽しげに眺め、おそらく八雲のであろうチョコレートを摘んでいるし。
このサークルにはツッコミ役や仲介役がいないに等しいからこうなると気が済むまで続く。
またかと呆れはするけど、案外この日常を気に入っている自分がいたりいなかったり。
結局この日は無法地帯の状態で活動は終了した。
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