天使リアエル

主は唯一の神である。偶像を作ることなかれ。みだりに御名を唱えることなかれ。聖なる日に感謝し、両親を敬いなさい。コロし、姦淫、盗み、嘘、それらがなき安然の地へといざ参らんーーーーーー。


 黒い雲が雷とともに天に描かれる。魑魅魍魎がざわめき闇が地上を跋扈する。大粒の雨が強く土壌を突き刺した。ラッパが大地に木霊した。開戦の合図と共に戦隊天使達が進撃した。

 リアエルは目を凝らした。距離800メートル先に違和感があったからだ。あそこに蟲が集中してる。何かがよくない予感がした。

「私見てきます」

「おい、リアエル」

「いや、行かせとけ、あいつなら大丈夫だろう、カナさんの娘らしいじゃないか。」

まあ、確かに、と上官が頷く。

「でも、あの夜から記憶がないんだろう?可哀想に。」

 リアエルは大きく翼を広げて飛ぶ。雨粒を裂くように進む。目標100メートル地点から大量の蟲が転回している。バベルの塔だ。羽虫が多いが、攻撃性のない者たちばかりだ。辺りを見回してもなぜここにとどまっているのか。理由が分からなかった。もう少し進んでみようと羽を2度羽ばたかせる。が、後方から突然気配がした。

「おまえ、くさいな」

 悪魔が下からめめつけるように見上げていた。目と鼻の先に距離を詰められる。早い。しまった、離れないと。しかし、間に合わない。悪魔のニヤついた瞳孔の開いた目で地面に叩きつけられる。

「ぐっぁ」

とっさに防御創を張ったが、骨が折れたか、2.3いやもっと。体勢を立て直して反撃をしなくては。嫌みなことに悪魔はその位置からから全く動いてない。

我が物顔で下品な笑顔で楽しそうにこちらを見下ろし言った。

「くっく、私にはわかるぞ。さすが、妾の子だ!!蛆のようにしぶとい!!!…………………こんなのが末の妹だなんて、心底不快で仕方がないな」

 砂をつぶしたような声でぼそっと呟く。

は?なに?なにをいっている?わかりやすく瞳を揺らし動揺した。

「ひひっ、おまえ、まさかしらないのか!?これは傑作!!」

 手を叩いて私を指差して嗤う。

それから考えるような仕草をして恍惚の表情を浮かべる。

「あぁ、でも左目は美しい……悪魔の色だ」

 悪魔の目が怪しげにギラリと光る。なんともいえない恐ろしさに肩がビクつかせる。不安を内にぐっと押し殺して自分を奮い立たせた。悪魔の戯言に耳を貸すな、目の前の敵を討伐するのみ。

「戯言を!!!」

 手を振り上げ、展開した20本の光の矢を悪魔目掛け撃ち放つ。真っすぐに喉元を食い破るつもりで。

ところがそれが折られる。どこからかやってきた黒い聖騎士がその全てを薙ぎ払った。渾身の一撃を。一振りで?それはわたしを一瞥もせず、男は言う。

「おい、ベルゼブ。撤退命令を聞いていなかったのか、独断専行は規定違反だぞ」

 協調性を身に着けろ、軍の品性かかわる、迷惑だと、くどくど説教をした。

「ちっ、いいところだったのによぉ、女王の番犬が、えらそうにしやがって」

とぺっと唾を吐き捨て

「あばよ、アバズレ女の娘」

とケラケラ笑いながら始終無表情の男と二人で去っていった。

「おい!…まて!」

 呼び止めたが見向きもせず飛び去っていく、なんなんだ、異様に気になった。あの言い草、まるでわたしをあくまみたいにーーーーーー。

雨でぐしゃぐしゃになった地面に膝をつき水たまりに写った自分の顔を見る。私は天使だ、

どこをどうみても天使じゃあないか。白い翼が生えている。肌だって白い。目だって水色の瞳で。………あか、いめ?頭に靄がかかった。直ぐ様、自身の頬を叩き喝を入れる。両目が赤い目の天使はいないが、オッドアイの天使なら珍しくない。

そんなことで動揺してどうする。惑わされるな。未熟者め。

だが、胸がざわつく。水たまりに雨は弾けて溶ける。私はあの悪魔の言葉がひっかかって消化できない。

いつもは気にしない雨がやけにうっとうしく感じた。




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私、天使だと思っていたんだけど?? re:零A @rireia

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