夏の記憶

夏が好き。

本編

 駅の隣にひまわりが咲いていた。

 駅と言っても、僕の地元の片田舎にあるほとんど利用者のいない小さな駅だ。雨風に曝されて灰色にくすんだ白い壁を持ち、錆びているのか赤茶色になった瓦の屋根を掲げている、古臭い駅。

 僕は、3個離れた町にある大きな本屋に行くために、月に2回程この駅に訪れていた。

 普段は電車が来る時間ギリギリに駅に着き、ほとんど待ち時間がないまま電車に乗るのだか、今日はスーパーに買い物に行くという親についでに車で送ってもらったから、いつもより早く着いてしまった。

 切符を買い終わってなお、15分の暇がある。

 一体どうしたものか。スマホを見てもいいが、あまり気分じゃない。情報の海に溺れると、目と脳が疲弊する。自分を痛めつけるのは、今じゃなくていい。ただでさえクーラーのない、サウナのような待合場にいるのだから。悶々とした時間を過ごし、周りを見渡す。意味もなく時刻表を見てみたり、壁に貼ってある祭りの知らせを眺めたりする。

 その行動に対する集中力も切れてきた頃、耳をつんざくような蝉の声が意識の中に入ってきた。何故こんなにもうるさく鳴くのだろう。そう疑問に思いながら、自身が生きていると周りに示す為の行為なのだと勝手に解釈していた。だが最近、雄の求愛行動なのだと知って拍子抜けした。

 何ともなしに入口を眺める。待合場と外のコントラスト。頑張りすぎている太陽に照らされているからか、影の中から外を眺めているからか、目に映るものが明るく輝いている気がする。

 何となく。本当に何となくなのだけど、陰った室内にいるのは勿体ないような気がした。

 不意に湧いた欲求に従って日の下に出る。すぐに後悔した。皮膚が焼け、表面の細胞が悲鳴をあげている感覚がする。

 早く影に戻ろう。陰の者である僕は、影の方がお似合いらしい。

 踵を返しかけて、動きを止めた。極彩色が、虹彩や角膜を通して像を結ぶ。

 夏の代名詞、そう呼ばれるのも納得の見事な1輪がそこにはあった。

 懸命に太陽に向かって背をのばし、光を反射するその姿は、「まさに生きている」と、そう形容したいほどの美しさだった。

目を見張って、笑みがこぼれた。なるほど、夏も悪くない。どこか遠くで、踏切の音が聞こえた。



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夏の記憶 夏が好き。 @na2hi7ta

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