第31話 明かされる真実

     31 明かされる真実


 私達がゲーテより遅れてその場に辿り着いたのは、純粋に移動距離の問題だった。


 東に移動したゲーテ達は、直ぐ傍にある件の戦場にいち早くついた。


 だが西に移動した私達は、地球を一周してから漸くその戦場に行き着く。


 そこには既にサンダルカの姿は無く、ゲーテ達はマルグの妹を連れて何処かに向かった様だ。


 その場には、ただプラーム・シフォンの亡骸だけがあった。


「……プラーム、ちゃん」


 彼女の全身はアザだらけで、彼女がいかに己の体を酷使して戦ったのかがよく分かる。


 彼女は私を蔑みの対象にしていながら、自分の命を擲って戦い抜いた。


 それが本当にバカみたいで、私はもう一度だけ涙する。


「……貴女は、バカよ。

 私にはそこまでする価値は無いって貴女は分かっていた筈なのに、なんで、こんな事を……?」


 けど、幾ら訊ねても返って来るのは沈黙だけだ。


 その問いに答えられる唯一の人物は、永遠の眠りにつき、最早目覚める事は無い。


 その事実が重すぎて、私はその場にしゃがみ込んだ。


「……そうだな。

 プラームは死んでも転生できるが、彼女の宿主はこれで完全に死んだ。

 私達は、彼女の親しい人々から、一生彼女を奪った。

 その罪は、決して軽く無い。

 君の言う通りだ、狩南。

 私達はこれで、大きな罪を背負った」


 プラームちゃんを抱きかかえたイスカダルは、気迫を以て地面を抉る。


 それから彼女の遺体を埋葬して、ただ黙とうした。


 私は何とか立ち上がって彼に倣い、静かに黙とうする。


 プラームちゃんの健闘を称え、名も知らぬ彼女の宿主にひたすら詫びた。


 それ以外何も出来ない自分は、本当に無力だと痛感しながら、私は大きく息を吐いたのだ。


「……その傷」


「ん?」


「気が付くのが遅れて、ごめん。

 その傷、早く治さないと」


 イスカダルが負った右腕の傷に目を向け、私は能力を使用する。

 彼の五体が無事であるという可能性をイスカダルに投影して、私は彼の傷を治す。


 ソレを見て、イスカダルは何故か首を傾げた。


「成る程。

 その能力は、そういう使い方もある訳だ。

 ……いや、だとしたら、待てよ」


 だが、ソレ以上は語らず、彼は別の事を口にする。


「悪かったな、狩南。

 君はあの場で決着をつけたかった筈なのに、私はソレを邪魔した」


「……そう、ね。

 でも、あの時はそれで良かったのかもしれない。

 私はああ大見得を切りながら、やっぱり何処かで迷いがあったの。

 私はやっぱり、いつかあの時あの場所で、彼奴との約束を果たしたいって思った。

 一瞬でもそう感じてしまった私では、ゲーテと相討ちになる事さえ難しかったと思う。

 それじゃあただの犬死なのに、本当、バカなのは私も一緒ね……」


 未だに捨てきれない自身の弱さを吐露して、私はもう一度息を大きく吐き出す。

 そんな私を見つめながら、イスカダルは何やら一つ頷く。


「狩南。

 この件において、君に責任は一切無い。

 全ては、プラームが己の意思で判断した事。

 彼女は決して君を苦しめる為に、命を懸けた訳ではないんだ。

 そんなプラームの気持ちを、どうか尊重してほしい。

 彼女の不幸を理由にして、自分の幸せを放棄するのだけはよしてくれ。

 それはきっと、プラームの決意に対するこの上ない侮辱だ」


「………」


 何時になく厳しい口調で、イスカダルは告げる。

 私は何も答えられず、ただ地面を凝視するしかない。


 いや、次の彼の言葉を聞いた時、私の意識は確かに現実に引き戻された。


「それを踏まえた上で、君に話しておかなければならない事がある。

 これは、プラームも知らなかった事だ。

 彼女はその事を薄々勘付いていた様だが、私はソレをはぐらかした。

 けど、プラームは間違ってはいなかったんだ。

 私にはこの戦争に対して――ある思惑があった」


「……は、い?」


 考えてもいなかった事を、唐突に言われ、私の意識は点滅する。


 私は、この戦争はコーファイン家とダンティス家の、単純な争いだと思っていた。


 けれどイスカダルは、ソレとは違うナニカがあると告白したのだ。


 現に彼の話を聴いて、私は絶句する。


「そう。

 君は何らかの不具合が起きて、クリスタは目覚めていないと信じているだろう。

 だが、それは違うんだ。

 彼女が目覚めないのは、当たり前なんだよ。

 何故って――それは私が意図的にクリスタを覚醒させていないからなんだ」


「……は? 

 へ……?」

 

 イスカダルが、意図的に、クリスタを覚醒させていない? 


 一体何の為に? 


 それで、コーファイン側に何の利があると言うのか? 


 私が混乱する中、彼は更に意味不明な事を言いだす。


「寧ろ不具合を起こしているのは――ゲーテの方だ。

 あの男は今大事な事を忘れていて、本気で私達を皆殺しにしようとしている。

 それが私にとって、最大の頭痛の種だよ」


「………」


 私には本当に彼が何を言っているのか、理解できない。


 ゲーテが大事な事を、忘れている? 

 その所為で、彼は私達を皆殺しにしようとしていると言うのか? 


 でも裏を返せば、その大事な事さえ忘れていなければ、彼の態度も違っていたという事? 

 私に妹を殺されたゲーテが、殺意以外の感情を私達に向けていたと? 


 そんな――バカな。


「――って、本当にどういう事よっ? 

 それじゃあまるで、イスカダルはゲーテと通じているみたいじゃない! 

 まさかクリスタを蘇らせないのも、その為っ? 

 ゲーテにとって都合が悪いから、アナタは彼の為にクリスタの覚醒を拒んでいる……?」


 だとしたら、それはコーファイン側に対する裏切りだろう。


 私はともかく、クリスタがソレを知ればどう思うか? 

 少なくともイスカダルに対し、不信感ぐらいは抱く筈だ。


 けど、彼は幸いにも首を横に振る。


「いや、それは違う。

 プラームとその宿主に誓って、私はクリスタを裏切っていない。

 寧ろクリスタを覚醒させないのは――彼女の為でもあるんだ」


「………」


 訳が分からない。


 彼の言っている事は、まるで整合性がとれていない。

 何時もの論理的な彼はどこにいったのか、今のイスカダルは私を混乱させるだけだ。


「そうだな。

 今のは、私の説明の仕方が悪かった。

 ちゃんと順を追って説明するから、どうか落ち着いて聴いてほしい。

 というのも、ほかではない。

 全ては私達が、この星に転生する前に遡る。

 前に説明した通り、コーファインとダンティスの戦争は既に五百年に及んでいる。

 だがそれは、私達の代の話だ。

 私達の祖先を含めれば、コーファインとダンティスは既に二万年以上戦争を繰り広げている」


「二万年以上……戦い続けている?」


 そういえば、プラームちゃんも言っていた。

 二万年生きたクリスタの祖父は戦いに疲れたから、転生権を放棄したと。


 その戦いとやらは、ダンティス家との戦争をさしていた?


「ああ。

 我々だけでなく我々の祖先もまた、ダンティス家と抗争を続けていた。

 その年月は気が遠くなる程で、そのため私達にとってソレは常識ですらあったんだ。

 だが、少し視点を変えると、コレは実に奇妙な事だと思えた。

 現に狩南は、二万年間も戦争を続けている国々など知るまい?」


 ……確かに百年戦争や応仁の乱は長期にわたって戦争をしていたけど、二万年は長すぎる。

 イスカダルが言う通り、ソレは何かがおかしい。


 具体的には言えないが、何か違和感があるのだ。


「そう。

 私もあの時になって、漸くその事に気付いた。

 クリスタのあの暴挙としか思えない行動を知り、私は君と同じ違和感を覚えたのさ」


「……クリスタの、暴挙? 

 それはもしかして……ゲーテの妹を殺害した事について?」


「ああ。

 実は、あの事件は正に最悪のタイミングで行われた。

 コーファインとダンティスが戦いに疲れ、互いに休戦を申し出ていた時に起きたんだよ。

 我々は内々に休戦協定を締結させるべく動いていたが、ソレを覆したのがクリスタだ。

 彼女は何を思ったのか、捕虜だったゲーテの妹を独断で処刑した。

 休戦協定が結ばれれば、祖国に返還される筈だったゲーテの妹を、惨殺したんだ。

 彼女はその事実を以て、改めてダンティス家に宣戦布告した。

 休戦協定の締結はこうして無くなり、私達は再度ダンティス家との戦争に突入した。

 だが、あの状況でクリスタがあんな事をする理由なんて、無かったんだ。

 そんな真似をしても、誰の利にもならず、ただ犠牲が増えるだけ。

 それに加え、おかしな事に、クリスタはその辺りの記憶が曖昧だと言う。

 確かに自分がしでかした事だと自覚しながら、その一方で釈然としない物を感じると言う。

 彼女の感想は、第三者が聴けば納得しがたい物だろう。

 だが、その時、私は直感した。

 もしかすれば私達が二万年も戦い続けているのは――これと同じ事が繰り返されていたからではと」


「……なんですって?」


 私が息を呑みながら、眉をひそめると、イスカダルは説明を続ける。


「突如人が変わったかの様な暴挙の所為で、戦争が継続される。

 それと同じ事があったのではないかと思い、私は半信半疑で歴史の研究を始めた。

 その結果が、これだ。

 コーファイン家とダンティス家は和議が行われそうになる度に、何らかのアクシデントが起きていた。

 どちらかの陣営の誰かが暴挙に及び、和平路線を潰してきたんだ。

 初めは私も偶然だと思っていたが、歴史を調べる内にこれがただの偶然ではないと知った。

 何せその暴挙を行った人物達は、その責任をとる様に自殺していたからだ。

 それも転生権を放棄しての自殺と言う、徹底した形で。

 調べてみれば私達の歴史は――そんな事の繰り返しだったんだよ」


「………」


 つまり、クリスタだけが特別ではないという事? 


 和平が叫ばれる度に、ソレを潰そうとする何者かが現れる。


 しかもそう言った暴挙に及んだ後は、その人物は自殺するという。


 ならば、これは、そういう事か――?


「……要するに、イスカダルがクリスタの意識を戻さないのは、彼女に自殺をさせない為? 

 歴史上の人々と同じ様に、転生権を放棄した状態で自殺をさせない為だと言うの……?」


「そういう事だ。

 現に彼女は一度、自殺をしようとした。

 その時は私が彼女を殺す事で、最悪の状況は避けられた。

 だが、彼女が暴挙に及んだ以上、またいつ自殺するかは分からない。

 クリスタを覚醒させないのは、ソレを避ける為の手段でもある。

 幸いだったのは、彼女が死んでいた時にゲーテも死んでいた事だろう。

 故に私はこの両者が復活した時、対等な立場で件の事実を話す事が出来た。

 私はね、狩南、クリスタとゲーテを引き合せて密約を結ばせたんだ」


「……密約? 

 あのゲーテがクリスタと……何らかの取り交わしをしたと言うの?」


 クリスタを憎むゲーテしか知らない私には、にわかには信じられない。


 しかし、だとすれば、これで話は繋がる。


「そう。

 復活したばかりのゲーテをある場所に誘導して、私はクリスタと彼を引き合せた。

 例の話を二人に聞かせて、私なりの推理を話したんだ。

 即ち――惑星ヒルビスにはコーファインとダンティスを争わせている何者かが居ると」


「……誰かが、コーファインと、ダンティスを争わせている……?」


 私が唖然としながら呟くと、イスカダルは真顔で首肯する。


「私としては、もうそう考えるしかなかった。

 和睦がなされ様とする度に、誰かが暴挙を行い、和睦の道を断つ。

 しかも揃って、その人物は自殺すると言う。

 これではまるで、証拠を隠滅しているかの様じゃないか。

 初めは二人とも疑いの目で私を見ていたが、どうもゲーテ達も思い当たる節があったらしい。

 実際に暴挙に及んだクリスタは勿論、ゲーテも彼女のこの行動には疑問を抱いていた様だ。

 彼は自分でもダンティスの歴史を精査した後、もう一度私達との密談に応じた。

 その結果、クリスタはこう結論したんだ。

 私達継続型の転生者の誰か意識には、必ず何者かが潜んでいると。

 その人物以外の何者かの意思が潜んでいて、和平が進むとその何者かがその人物を操作する。

 自分の様に暴挙に及ばせ、和平案を潰して、自殺を図る。

 つまりその意思が存在する限り、コーファインとダンティスは永遠に戦い続ける事になる。

 そう判断した彼女は、だからこそ一時的にゲーテと手を組んだ。

 何とかその何者かを表舞台に引きずり出し、打倒する。

 それが済むまでは、表向きは今の様に自分とゲーテは戦いを続ける。

 無論、この事は私達三人以外には、口外出来なかった。

 何せその事を周知させれば、その何者かも私達の敵意を知る事になるから。

 そうなれば、敵が次にどんな手段を用いてくるか分からない。

 敵の目を欺く為にも――私達は今まで通り戦争を継続する必要があったんだ」


「……まさ、か。

 そんな事、が」


 私達とダンティス家を争わせ続けている、敵がいる。


 その敵の所為でゲーテの妹や、プラームちゃんは、死んだ。


 唐突に告げられたその推理は私を混乱させながら、ソレとは違った意味で私を愕然とさせた。


「要するに……ゲーテはクリスタとの密約を忘れている訳ね? 

 彼がその事を忘れているから……私達は本気で殺し合わなくてはならなかった?」


「そういう事になるな。

 故に問題は未だに敵の正体がハッキリしない事と、ゲーテの記憶に不具合が起きている事。

 いや、だが、後者の方は何とかなりそうだ。

 その為にも君の力が必要なんだが、協力してくれるか、狩南?」


「………」


 私がアクションを起こせば、ゲーテを何とか出来るかもしれない。


 ならば、私は頷くしかない。


「でも――私達三人の誰かの中にその何者かが居たとしたらどうなるの? 

 仮にそうなら、私達は――」


「ああ、完全にアウトだ。

 私達の思惑は敵に筒抜けで、先手を打たれる事になる。

 今はもう、そう言った最悪の事態になっていない事を祈る他ない」


 ……嘆息する様に息を吐きながら――イスカダル・コーファインはそう謳った。

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