第28話 続・二つの激戦
28 続・二つの激戦
プラームとサンダルカが戦い始めた頃――イスカダルとゲーテも戦闘を開始する。
イスカダル達は結界に包まれ、狩南だけが現実世界にとりのこされる。
この状況を前にして、イスカダルは目を細めた。
(やはり、マルグも結界内に取り込まれたか。
そうなると私はやはりゲーテだけでなく、マルグも警戒する必要に迫られる。
恐らく彼女はゲーテが危うくならない限り参戦してこない筈だが、これは希望的観測にすぎない。
マルグがゲーテの意向を無視して、私の隙をつき攻撃してくる事もあり得る。
そう考えると、かなり厄介だな)
心理的には初めから一対二の時より、警戒心が高まる。
いつ攻撃してくるかわからない分、イスカダルは常に緊張状態を強いられる。
仮にゲーテが意図して、こういった構図をつくり出したのだとしたら、更に厄介だ。
イスカダルはそう考慮して、何時でも逃げ出せる用意を整えた。
今は、狩南の身の安全が第一。
何かのはずみでマルグが狩南を手にかける事だけは、あってはならない。
少なくともイスカダルはそう考え、先制攻撃をしかける。
彼は拳を突き出し、直径一キロにも及ぶオーラを発する。
ソレを見て、マルグは大きく横に飛んで回避した。
そしてイスカダルの標的だったゲーテはというと――ただ右腕を突き出しただけだった。
「なに?」
先の戦いではイスカダルの一撃で吹き飛んだ彼だが、今度は違った。
ゲーテは片腕で数秒間イスカダルの攻撃を防ぎ――ついで左腕も突き出す。
両腕で漸くイスカダルの攻撃を防御しきった彼は、一笑する。
「やはり、まだ両腕を使わなくては、無理か。
だが、私の力は確実に戻りつつある。
それが何を意味しているか――きさまは勿論わかっているのだろう、イスカダル?」
「………」
それは当然、分かっている。
イスカダルの守護星である木星の半径は、六万九千九百十一キロ。
対して、ゲーテ・ダンティスの守護星である太陽の半径は――六十九万五千五百八キロに及ぶ。
実に十倍近い差があり、正に圧倒的な力の差と言える。
仮にゲーテが全盛期の力を取り戻せば、イスカダルでも手に負えなくなるかもしれない。
それ程のポテンシャルを――ゲーテ・ダンティスは秘めているのだ。
それに加え、ゲーテはまだ能力を隠している。
いや、今のゲーテが能力を使えるのかさえイスカダルには、不明瞭だ。
(が、序列五位に加え、序列二位を従えた以上、やつの力はソコまで高まっていると考えるのが妥当)
片やイスカダルの能力は、既に明らかにされている。
実際にその身で受けたマルグの口から、ゲーテに伝えられたと見るべきだろう。
そのマルグは、今は何処かに潜み、姿を見せない。
よってイスカダルの標的は、やはりゲーテに絞られる。
彼は拳を乱発して、ゲーテに防御を強いる。
イスカダルの狙い通りゲーテは防御に終始し、今のところ防戦一方だ。
周囲の山々は消し飛び、地球自体が震え、所々で地割れが走る。
星さえ消滅しかねないイスカダルの攻撃を受け、ゲーテは浮かべていた笑みを消す。
彼は眉間に皺を寄せた後、尚も攻撃を続けるイスカダルにこう告げた。
「――つまらん真似はよせ、イスカダル。
この程度の攻撃で倒せる私ではない事を――きさまも既に知っている筈だ」
「―――」
未だにパワーで劣るゲーテは、一瞬でイスカダルの攻撃を見切る。
彼はプラームがそうした様に、イスカダルの攻撃を受け流す。
攻撃を逸らされたイスカダルは僅かにバランスを崩し、その間にゲーテが迫る。
間合いを詰めたゲーテは、イスカダルに向け、肘打ちを放つ。
特筆すべきは、その威力だ。
ゲーテが発したエネルギーは、今のサンダルカの三倍に相当する。
彼はプラームと同じ業を使った訳ではないのに、それだけのパワーを発揮する。
これを右腕で受けたイスカダルは、南極まで吹き飛びながら、何とか体勢を整えた。
「さすが。
本来なら月まで吹き飛んでいる所を、うまく力を受け流したか。
やはり戦闘技術では、きさまに一日の長があるらしい。
だが、それも何時まで続くかな?
私が能力を使いはじめれば、きさまの余裕も綺麗に消し飛ぶかもしれんぞ――?」
「………」
能力を使用出来ると仄めかし、ゲーテはイスカダルに迷いを生じさせる。
仮にこれが事実なら、イスカダルはゲーテの能力を警戒する必要がある。
仮にハッタリでも、その成否がつかないイスカダルは、やはり警戒を強いられる。
この時点で心理的には、ゲーテがイスカダルを圧倒しつつあった。
それを踏まえた上で、イスカダルはゲーテにテレパシーを送る。
《一つ、訊く。
きみは本当に、私達を皆殺しにするつもりか?》
《……何?
何を言っている、きさまは?
そんな事は、最早語るまでもあるまい?》
事もなく断言するゲーテに対して、イスカダルはもう一度目を細める。
彼は瞬時にして、こう結論した。
《やはり、そういう事か。
本当に厄介だな、きみは。
ならば――ここは荒療治といこう。
死なない程度に殺してやるから――覚悟するがいい》
「上等だ――コーファインに与する外道!
きさまこそ今すぐハラワタを引きずり出してやるから――泣き喚くがいい!」
途端、イスカダル・コーファインは背中に光の翼を具現して、右手には巨大すぎる銃器を携える。
ゲーテが疾走を始めると、イスカダルはソレを追尾した。
この時、彼の脳裏にはある情景が過ぎる。
彼とて、人の心を持つ人間である。
よって恋の一つもした事があるのだが、彼からしてみるとソレは失敗だった。
彼は、星に留まるタイプの転生者である。
ならば、その恋の相手は同じタイプの転生者が相応しいだろう。
でなければ、その恋人の命が尽きた時点で、彼等は離れ離れになる。
一般人の転生者は、命が尽きた時点で他の星の人間として転生するから。
そういった事情がある限り、皇族や側近達は一般人を恋愛の対象には殆どしない。
だが、彼はその事が分かった上で一人の女性に恋をした。
一般人である彼女は皇族である彼に求愛されて、唖然とした物だ。
それでも彼が如何に本気か理解した時、彼女は心底から彼を愛した。
同い年だった二人は同じ様に年月を重ね、歳をとって、寿命を迎えるつもりだった。
可能な限り二人だけの時間を積み重ね、思い出を蓄積していく。
何れ手放さなければならない彼女だからこそ、彼はこの二人の関係を心から尊んだ。
だが、この両者の蜜月は思わぬ事が原因で終わる事になる。
それは、彼と彼女が二十二歳の時の事。
彼女は、敵国の人間に殺された?
いや、違う。
彼女は、病にかかって病死した?
いや、違う。
彼女は惑星ヒルビスの呪いによって――その命脈を断たれたのだ。
その時、彼女が彼に向けて告げた第一声がこれだ。
〝……いえ、残念ながら私はもう――あなたが知る私ではないのです〟
見知らぬ他人を見る様な目で、彼女はそう断言する。
お蔭で彼は瞬時にして、彼女に何が起きたのか理解した。
そうだ。
確かに一般人は他の星に転生する。
だが、その他の星に転生した人間が死亡すればどうなるか?
彼等はまた他の星の人間に転生する筈だが、その範疇にヒルビスも入っていたとしたらどうなる?
その人物はヒルビスの人間に再転生して、その対象があろう事か彼女だった。
寄生型の転生者だったその人物は、彼女から必要な知識を得てから、一瞬にして人格を変えた。
それは、見かけは彼女だが、中身は見知らぬ男性という状況だ。
彼にしてみれば、この時点で彼女は死んだと言って良い。
例え彼女の知識を得ていようと、彼にとって彼女はもう彼女ではないのだから。
その時、彼は自分達がどれほど罪深い事をしているか、思い知る。
〝……ああ、そうか。
これが……私達の業。
転生と言う無限の輪が生む、この上ない非道。
私達は私達として生まれた時点で……どうしようもない程の罪を犯している〟
その哀しみが、その怒りが、彼の心を揺さぶった。
彼は初めて転生という物の正体を知り、ただソレに連なる自分達を呪う。
唐突に彼女を失った彼は最後に彼女の声でこう告げられた。
〝ええ。
それでも彼女は、心から貴方を愛していましたよ――イスカダル・コーファイン〟
〝あああああ……ああああああああああああああ―――っ!〟
こうして彼女を失った彼は――生涯女性を愛さないと決めた。
例え後何千回転生しようと、彼女以外の女性は愛さない。
それが彼の誓いであり、彼が転生という物に疑問を抱いた切っ掛けだ。
ついで彼は――現実を見据えながらその能力を発揮する。
疾走するゲーテの背後目がけて、イスカダルは手にした銃の引き金を引く。
ソレは――海王星程度なら一撃で消滅し得る一撃。
いや、イスカダルの攻撃は威力よりその能力が脅威と言えた。
彼の弾丸は――あらゆる事象を無視するのだ。
故に〝疾走による回避〟も完全に無視されて、その弾丸はゲーテに迫る。
彼には最早二者択一しかなく、ゲーテは防御を選択する。
イスカダルの通常攻撃は防ぎ切った彼だが、この弾丸は防御しきれず吹き飛ばされた。
それでも空中で体勢を整えながら疾走を再開し、ゲーテは喜悦する。
「――マルグの報告通りの能力だな!
ヤツの読みが正しければ、きさまが無視できる事象は一つではあるまいっ?」
故にゲーテは足を止め、防御に意識を集中する。
この挑発を受け、イスカダルは第二射を放つ。
それと同時にゲーテは瞬時にして移動し、彼の弾丸を躱す。
だが、ソレは無駄な事ではないのか?
イスカダルの弾丸があらゆる事象を無視するならやはり寸前の回避も無視される。
いや、その筈だったが、今度はイスカダルの弾丸をゲーテは躱し切る。
この時、ゲーテはイスカダルの能力を完全に見切った。
「やはりそうか!
きさまが無視できる事象は一発の弾丸につき、一つだけ!
今は私の防御を無視して弾丸を放ったので、回避はその対象ではなかった!
成る程!
きさまらしい強力な能力だが、種さえ割れれば防ぎきれない物ではない!」
よって、ゲーテは先程の様に不動でイスカダルを迎え撃つ。
イスカダルが三発目を発射した途端、ゲーテは動き始めその弾丸を回避しようとする。
イスカダルの弾丸は回避を無視してゲーテに迫るが、彼はソレを全力で防御した。
結果、彼はダメージを受けながらも、致命傷は避ける。
イスカダルが弾丸を放った途端、回避に専念し、回避が出来なければ防御に徹する。
確かにこの戦術なら、イスカダルの攻撃を最小限のダメージでやりすごす事が出来るだろう。
(いや、それだけではない筈。
やつは恐らく――敵の能力さえも無視する)
だとしたら、正に脅威だ。
ただでさえ押されているゲーテ・ダンティスに、勝ち目と言う物は無い。
それが確かな現実なのだが、イスカダルは決して油断してはいなかった。
彼は全力を以て――次の一撃で勝負をつける事にする。
(多分、ゲーテの読み通り。
彼は私の能力を、概ね見切っている。
だが――私がここまで出来るとは思っていまい)
それは同じ敵には一日に一度しか使えない――彼の切り札。
イスカダル・コーファインは、一度だけ〝防御、回避、能力〟の三つ全てを無視して攻撃を着弾出来る。
故に敵は肉体的な強度のみで、その弾丸を受け止めるしかない。
そしてイスカダルの計算では、この一発を受ければ少なくともゲーテは気絶する事になる。
――ソレは事実だ。
イスカダルの計算に誤りはなく、彼はこの一撃を以てゲーテを打破できるだろう。
よって彼が次の弾丸を放った瞬間、勝敗は決した。
――いや、正確には彼が攻撃を加えようとした時、全ては終わったのだ。
(な――にっ?)
イスカダルが――頭部と脇腹に正体不明の衝撃を受ける。
これが、ゲーテの能力?
いや、違う。
これはマルグ・トリアの能力で――彼女は自身の攻撃を〝未来に向かって放った〟のだ。
但しこの能力は分身か本体が、標的となる敵の体に触れる必要がある。
(あの時――か!)
狩南を庇い、マルグの攻撃をその身に受けた事を思い出す、イスカダル。
この一瞬の隙を衝き、ゲーテ・ダンティスはその能力を発動させ――彼はイスカダルの右腕を切断した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます