第27話 二つの激戦
27 二つの激戦
「そうだな。
サンダルカはまず――プラームを片づけろ。
その後、もし私がまだイスカダルを倒していなかったら、お前は私に加勢だ。
マルグは今回、ただ見ているだけでいい」
ゲーテが部下二人に指示を出すと、マルグは首を傾げる。
「本当に宜しいのですか、殿下?
私が参戦すれば、手早く済むと思うのですが?」
「ああ。
オマエはまだ、イスカダルにやられた傷が治りきっていまい。
それに、俺はいま自分がどれだけ力を取り戻したか、試してみたい。
イスカダルは――そのいい実験材料だ」
「……ほう?
それは随分、舐めた真似ですね。
それはつまり、イスカダル様を倒さない限り狩南様には手を出さないという事でしょう?」
「そういう事だ。
逆を言えばきさま達さえ殺せば、狩南はもう無力に等しい。
後でいかようにも、料理出来る。
それが厭なら存分に踊り狂うがいい――コーファインの犬ども」
「上等です。
なら目にもの見せてあげますよ――ダンティス家のこせがれ」
「――プラームちゃん!」
狩南が思わず叫ぶと、彼女はニコリと微笑む。
「大丈夫。
何の問題もありません、狩南様。
直ぐにお迎えにあがって――また思う存分罵ってさしあげるのでご安心を」
言いつつ、プラームは地を蹴る。
サンダルカはソレを追い、イスカダル達はその場に留まる。
ここに――序列二位対序列八位の戦いは幕を開けた。
だが、ソレは本当に絶望的な戦いと言って良い。
プラームの守護星である金星は――半径六千十二キロ。
対してサンダルカの守護星である木星は――半径六万九千九百十一キロ。
十倍以上の差があり――これを実力の差だと換算すると勝負は既についている。
プラーム・シフォンは――一瞬にしてサンダルカ・メイフィズに抹殺される事だろう。
プラームに唯一勝機があるとすれば、ソレは復活した年月にある。
サンダルカはつい数時間前に目覚めたばかりで、プラームは一年も前に蘇生している。
この唯一の差がプラームの武器であり、勝ち目と言う物だ。
だが、その企みを嘲笑う様に、サンダルカはありったけの殺意をプラームにぶつけた。
「……つっ!」
凶悪すぎるその殺気を受け、プラームは僅かに後ずさる。
今更ながら内在する力の差を思い知って――彼女は呼吸を乱した。
(不利な立場であるプラームが決戦に臨んだという事は、何か思惑があると考えるのが妥当。
けど、今は――序列八位に時間をかけている場合じゃない。
いえ――せめてあなたは私の全力を以て葬ります)
元々、サンダルカ・メイフィズは高潔な人物である。
貴族にあって質素倹約を旨とし、文武両道も怠らない。
最上位騎士である彼女は、奇しくも転生先でも剣士だった。
山根水波という名の少女は三歳の頃から竹刀を振るっている、全国でも名の知れた剣道家だ。
この前世と現世の特技が一致した事で、サンダルカの力は目を見張る物になる。
彼女がオーラを剣に変え、ソレを振り下ろした瞬間、周囲は眩い光に包まれた。
いや、其処が結界の中でなければ、人類は確実に終わっていただろう。
何せサンダルカ・メイフィズはいま比喩なく――地球を月ごと両断したのだから。
それはプラームも同じで、十倍の力を誇るサンダルカの攻撃を受けた彼女は消滅する。
光の中に消えて、彼女は粉微塵になる。
――いや、常識で考えるなら、確かにその筈だった。
「――まさか?」
「と――さすがに効きますね」
だと言うのに、プラーム・シフォンは健在で、傷一つ負っていない。
彼女はサンダルカの攻撃を何らかの方法で防ぎ、生存している。
その事実を、サンダルカはただ笑った。
「序列八位が、序列二位の攻撃を防いだ?
だとしたら――これほど楽しい冗句は他にない」
実際、サンダルカは喜悦しながら刃渡り五十万キロに及ぶ剣を振り下ろす。
更には左右に薙ぎ払い、袈裟切りにして確かに目の前の敵をバラバラにする。
いや。
だが、それでも、プラームは傷を負っていない。
彼女はやはり無傷で、笑みさえ浮かべる余裕がある。
この異様な状況を前にして、サンダルカは気を研ぎ澄ます。
(そう。
私は慢心していた?
私が知るプラームなら一瞬で殺せると、自惚れていた?
でも違うのね?
今私の目の前にいるプラーム・シフォンは――私が知る彼女じゃない)
それでも、彼女はまだ油断している。
全力を出し切らないサンダルカは、まだプラームを見くびっている。
ならば――その思い違いこそがプラームのつけ入る隙だ。
その時、サンダルカ・メイフィズはプラーム・シフォンが何をしているのか、目撃した。
(な――に?)
プラームがしている事は、一つだけ。
自身に迫った剣を受け止め、受け流しているに過ぎない。
ただソレがどれだけ超人的な事か、サンダルカは思い知る。
(まさか、そういう事――?)
「ええ。
そういう事です――サンダルカ・メイフィズ」
一瞬して、プラームと言う颶風がサンダルカに迫る。
己の間合いに入ったサンダルカに、プラームはただ拳を叩き込む。
あろう事かサンダルカはソレで吹き飛ばされ、彼女は血反吐を吐いた。
一気に月まで吹き飛ばされたサンダルカは、何とか体勢を整える。
いや、今のは彼女だったからこそ、何と致命傷を免れたのだ。
サンダルカが自ら後方に飛んだ事で、プラームの一撃を最小限の威力に留めた。
だが、その間にもプラームは間合いを詰め、更にサンダルカへ蹴りを入れる。
サンダルカは地球まで吹き飛び、更に血反吐を吐く。
後はその繰り返しだった。
吹き飛ぶサンダルカを追って、プラームは接近し、彼女に殴打を加える。
ソレを十二回ほど繰り返した時、プラーム・シフォンはサンダルカ・メイフィズを称賛した。
「さすが。
まだ死にませんか、あなたは。
この業を以てしてもなお殺せないあなたとは、一体何者なのでしょうね?」
「……つっ!」
それは、此方の台詞だ。
全盛期の力を取り戻していないとはいえ、サンダルカの目から見ても今のプラームは異常すぎる。
けれど、サンダルカはプラームが何をしているかは、理解していた。
これは純粋に――業と力の差だ。
プラーム・シフォンは攻撃と防御の瞬間、パワーをはね上げ、自分の攻防力を凌駕している。
それは何故か?
例えプラームの十倍の力を内包しているサンダルカと言えど、その全てを吐き出す事は出来ない。
内包しているパワーを全て放出すれば、サンダルカの肉体自体がその負荷に耐えられないのだ。
それに対して、プラームは違う。
彼女が瞬間的に発しているエネルギーは――サンダルカの六倍以上に及ぶ。
プラームが一度に引き出せるパワーは、サンダルカの六倍以上である。
プラーム・シフォンは修練によって――瞬間的に引き出せる力を圧倒的に高めたのだ。
「そう。
序列が下位の人間が、序列が上位の人間に勝つ方法を私はずっと考えていた。
私が思いつく限りでは、その方法は二つだけ。
特殊能力で上回るか、放出できるエネルギーを凌駕するかのみ。
けれど前者は運に委ねられる為、何の保証もない。
だから私は修行により放出するエネルギー量を爆発的に高めた訳です――サンダルカ」
「ち――っ!」
それも全ては――序列が下位に生まれた人間の意地。
下位にあっても上位に勝てる方法を模索し、ソレを実現できるよう訓練を重ねた結果。
この時プラーム・シフォンは序列の壁を越え――サンダルカ・メイフィズを追い詰める。
「……そう。
そういう事。
ならば、私も全身全霊を以て応えるのみ――っ!」
「くっ?」
途端――プラームは敵を目の前にして初めて動きを止めた。
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