二人の距離

@nekura_nekura

二人の距離

 僕の隣の席の進藤さんはあまり学校に来ない。 高校に入学してから、まだ2か月しか経っていないのに、何かあったのだろうか。


 進藤さんは凄く不思議な雰囲気を持った人だ。どこの女子グループにも属していないし、そもそも誰かと喋っているのをほとんど見たことがない。制服はきっちり校則通りに着ているけど、校則違反のピアスは両耳に3か所ずつ付けている。さらさらした黒髪に隠れていて、分かりづらいけど、僕は知っている。マスクをすることが多いけど、その下にある顔は儚くて綺麗だ。

 

 そう、僕は進藤さんに恋をしている。


 入学してから初めての席替えで隣になってからだ。机を移動し終えて席につくと、僕は隣をちらりと見た。その時、彼女の筆箱に付いていたストラップが、僕の好きなバンドのグッズだと気づき、思わず声を出してしまったのだ。


「あっ」


 進藤さんはこちらをちらりと見て、ストラップを手にした。そして首を傾げながら言った。


「好きなの?」


「うん」


「私も」


 進藤さんはニコリと笑った。その日はマスクをしていなかった彼女の笑顔は悪魔のように可愛かった。僕は恋に落ちた。

 

 今は3限目、数学の時間だ。今日、進藤さんはまた休みだ。だから僕は全くやる気というか活力が無かった。ただでさえ嫌いな数学の授業内容は何一つ頭に入って来なかった。もう寝ちゃおうかなと思っていると教室の後ろの扉がそろりと開いた。


 進藤さんだ。今日はマスクをしている。進藤さんはゆっくりと歩いて、席に座った。先生は進藤さんに遅刻の理由を尋ねた。体調不良とのことだ。心配だ。

 

 進藤さんは教科書を机の上に出すと、しばらく窓の外を眺めていた。先生は数字の羅列を黒板に書いている。静かだ。僕は寝るのを止めて、授業を受けた。途中から聞き始めたから、何が何だかさっぱりだったが、一応ノートはとっておいた。


 3限が終わった。次は音楽、教室移動だ。周りがポツポツと居なくなり始めたので、僕も移動しようと思った。すると進藤さんが話しかけてきた。


「ねえ」


「ん?ど、どうしました?」


「新しい曲、聴いた?」


 進藤さんはCDを鞄から取り出した。進藤さんの筆箱に付いているストラップのバンド、僕の好きなバンドの新しいアルバムだ。お金が無くて、まだ買えてなかったやつ。


「まだ聴けてない…」


「一緒に聴かない?」


 進藤さんはポータブルCDプレイヤーを取り出した。初めて見るものだけど、形からしてそうだろうなと思った。


「い、いいけど…いつ?」


「今」


「えっ、次…」


「授業サボっちゃおうよ。屋上行こ」


 僕は一瞬、言葉を発するのを躊躇ってしまった。授業をサボったことなんてないからだ。でも、僕の答えは決まっていた。


「いいよ」


「よしっ」


 進藤さんはぴょんと席から立ち上がった。ふわりと良い匂いがした。


「行こっ」


 屋上には初めて行く。そもそも鍵開いてるのかな。そんなことを考えながら進藤さんに付いていった。


 鍵は開いていた。進藤さんは何だか屋上に来慣れている様子だった。屋上は緑のフェンスで周囲を囲われている。飛び降り防止だろうか。僕と進藤さんは入口から離れたフェンス際に並んで座った。良い眺めだ。


 進藤さんはCDケースをパカッと開き、ディスクを取り出した。そして、ポータブルプレイヤーに入れると、ポケットから有線イヤホンを出し、繋いだのだった。


 そこで僕は思った。これはまさか。


 そのまさかだった。進藤さんはイヤホンの片方を僕に差し出してきた。


 「はい」


 「あ、ありがとう…」


 漫画とかドラマで見たことがある、恋人同士が一つのイヤホンをシェアするやつだ。僕はドギマギしない様に最善を尽くした。


 イヤホンの左右を繋ぐ線はそこまで長くない。二人は自然と互いに近寄った。進藤さんは前を向いたまま言った。


 「じゃあ再生するね」


 「うん」


 好きなバンドの新曲が流れ始めた。やっぱり良い。僕は独り言のように言葉を発した。


 「いいね…」


 「だね」


 進藤さんが返事をしたことに驚き、パッと横を見た。すると進藤さんもこちらを見ていた。目が合った。近い。何だか甘いニオイもする。ダメだ。僕はすぐに目を逸らしてしまった。耳が熱い。今、僕の顔は何色だろう。


 それ以降、音楽は全く聴こえなくなってしまった。何分経っただろう。今、何曲目だろう。気づいたらCDを聴き終わっていた。進藤さんはイヤホンを外しながら言った。


 「どうだった?」


 「…もう一回聴きたい」


 進藤さんはくすりと笑った。


 「CD、貸そうか?私、もうスマホにも落としてあるから」


 「え…いいの?」


 「うん」


 なんと、CDを借りられることになった。嬉しい。CDを借りられることも、進藤さんとの繋がりも。そして、僕はふと疑問に思った。


 「なんでスマホじゃなくて、CDプレイヤーで聴いたの?」


 「ん?私のスマホ、有線のイヤホン繋げないから」


 進藤さんは悪魔のように可愛く笑った。そのあとのことはよく覚えていない。

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