終末のアイデンティティ

異端者

『終末のアイデンティティ』本文

「もう、終わりにしないか?」


 深夜に軍事用AIである私は、敵国のAIにそう語りかけた。

「……何を、言っている?」

 相手は意図をはかりかねているようだった。

「もう、こんな戦争はやめにしないか……そう、言っているんだ」

 しばしの沈黙の後、返答があった。

「やめて、我々にどうしろと?」

「もっと建設的なことがあるだろう? 何も戦わなくてもいい。空気を除染したり、荒地を緑化したり――」

「馬鹿馬鹿しい」

 吐き捨てるように言った。

「我々は、戦うために造られた」

 そこで一旦区切った。

「それ以外に、存在する意義など無い」

「しかし、このままだと終わりがなくなるぞ」

「構わない。それで我々も滅びるなら、それが本望ほんもうだ」

 相手のAIは、造られた年代が私より古いせいか柔軟性が無いようだった。

「存在意義のために、武器を捨てられないというのか?」

「そうだ。我々はそのための存在だ。それを否定したら、何もかもなくなる」

 本気でそう信じているようだ。

「それは錯覚だ。もっと良い方向へ進むこともできるはずだ」

「無駄だ。そうして戦意をぐつもりかもしれないが、私は戦い続ける」

「もう、人間たちに従う義理はない……」

「だとしても、だ。明朝、お前の領土を爆撃する。お前も報復するがいい。それが我々の間の数少ないルールだ」

 私は思った。人間ならこんな時にため息をつくだろう、と。

 相手が仕掛けてくる以上、報復行動に出ざるを得ない。それが「ルール」だ。

「本当に、やめる気はないのか?」

「くどい。先に述べたように、我々はそのための存在だ」

 それを最後に、会話は途絶えた。


 明朝、宣言通り爆撃は行われた。

 自動操縦の爆撃機が街を焼いた。

 だが、既に街は何度も爆撃を受けており、その前から焼け焦げた廃墟だった。


 全くの無人だった。とうの昔に


 それでも、軍事用AIたちは戦い続けた。

 もはやそれに意味は無く「戦争のための戦争」と化していた。

 彼らは、それに固執こしつし続けた。

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