喫茶店でスター流メンバーが大集合します!

モンブラン博士

第1話

土曜日のことでした。わたしはスターさんに召集されて喫茶店に足を運びました。

ムースさんも一緒に行けたらよかったのですけれど、残念ながらわたしひとりだけのお呼ばれでしたから、彼女にはアパートでお留守番をしてもらうことになりました。

とても寂しそうで心が痛みましたので、スターさんのお話が終わったらおいしいケーキでも買って帰ろうかなと思っています。

甘いものを食べたら幸せな気持ちになりますから。

お洒落な喫茶店の扉を開けるとカランカランとドアベルが店内に鳴り響きました。

このベルは喫茶店ならではのものだと思いますけれど、この音を聞くと喫茶店にやってきたという雰囲気があってわたしは好きです。オレンジ色の電灯が温かさを演出し、木製のテーブルに柔らかそうな赤のソファが上質に思えます。きっとこのお店はお客さんにくつろいでもらうための努力を惜しまないのでしょう。好感を覚えながら店内を見回しますと、スターさんが手を振って教えてくれました。

六人用の席に行って空いている不動さんの隣に腰かけました。

やはりといいますかソファはとてもふかふかでリラックスできます。

店員さんが冷たいお水をコップに運んできましたので、まずは喉を潤します。

冷たいお水にはレモンがしぼってあってとても飲みやすいです。

それから机に並べられてあるメニュー表を手にとって料理を眺めてみますが、どれもとても美味しそうで何を注文しようか迷ってしまいます。

問題はわたしのお財布事情なのですけれど。

するとスターさんがいつもと変わらない人を明るい気持ちにさせる笑顔を見せて言いました。


「今日はわたしのおごりだから何でも好きなものを頼んでいいからね」

「ありがとうございます!」


おごってもらえるなんて夢のようです。

これで遠慮することなく好きなものを注文できます。

スターさんはスターコンツェルンという大企業の会長も務めていますからものすごくお金持ちで喫茶店のメニューなら何をどれだけ注文してもすぐに支払えるはずです。


「それではオムライスにします」


店員さんにメニューを告げて、わたしは改めて今日集まったメンバーを見ました。

スターさん、ジャドウさん、ロディさん、カイザーさん、不動さん、わたしの六人です。

金髪に星のように輝く青い瞳。茶色のスーツ姿のスター=アーナツメルツさん。

後ろに撫でつけた銀髪に立派な白い口髭。針金のように細く長身で白の肋骨式軍服を着こなしたジャドウ=グレイさん。

豊かな金髪に碧眼。茶のテンガロンハットに赤のスカーフ。紺のシャツにガンベルトのロディさん。

背中までかかる長い茶髪に鋭い眼光。鬼のように凶悪な顔立ちに屈強な上半身。迷彩色の長ズボンスタイルもいつもと変わらない不動仁王(ふどうにおう)さん。

そしてメンバーで最も巨体のカイザーさんもいつもと同じ白のコックコート姿です。

さすがにコックコートだとこのお店のコックさんと間違われそうな気がしますが、どうなのでしょう?

そしてわたし、闇野美琴(やみのみこと)となっています。

スターさんとロディさんを挟むようにしてジャドウさんが座っていますが、右隣に彼が忠誠を誓うスターさん、左隣に犬猿の仲のロディさんと両手に花状態です。

不動さんの隣にはカイザーさんが座っています。

時間帯もあってかお店のお客さんは少ないのですけれど、二メートル級の男性が五人もいる状況はちょっとだけ、いえもしかするとかなり――威圧感を与えているようでした。

それにしても、これはすごいメンバーではないでしょうか。

カイザーさんは普段は自身が経営しているパン屋さんで働いていてよほどのことでないと召集に応じませんから、これは何かあると判断していいかもしれません。

自然と背筋が伸びて緊張感が高まってきます。

おいしく食事をするためにお話が早く終わってくれますようにと祈っていますとスターさんがニコニコ笑って言葉を告げました。


「今日集まってもらったのはわたしの後継者を決めるためなんだよ」


まるで天気の話でもするかのようにサラッと言ってのけたスターさんでしたが、これはとんでもないことです。

スターさんはもともと大事なことを何でもないふうに言う癖があるのですが、今回の話はとてつもなく重要なお話でした。

スターさんの後継者を決めるということですから、カイザーさんが召集に応じたのも納得です。

スター流格闘術が誕生して数十億年。ずっと頂点に君臨してきたスターさんが初めて後継者を選ぶというのですから、すごいことです。そのメンバーにわたしも加えてもらえるなんてちょっと嬉しいかもしれません。

スターさんはフォークでペペロンチーノをくるくると巻いて口に運んで飲み込んでから言いました。


「わたしも万が一ということがあるから、そのときに備えて後継者を決めておいたほうがいいかなと思ってね」

「万が一ってたとえばどういう状況ですか?」

「敵に倒されたり封印されたり、死亡したり。まあ、色々だね」


わたしの問いにスターさんが答えますと、ジャドウさんが口を挟みました。


「スター様にかぎってそのようなことはないと吾輩は思われますが、しかし、何事も万全を期す選択をされるとはさすがですぞ」


ジャドウさんは本当にスターさんのことが大好きなんですね。

ずっとスターさん一筋で忠誠を誓っていますし、流派ではあまり好かれることのないジャドウさんですけれど、その忠誠心だけは誰からも評価されています。

彼の目の前には赤ワインのボトルが置かれていました。

今日もあいかわらずジャドウさんはお酒しか飲まないようです。

それはともかくスターさんの想定している状況がわたしにはイマイチ想像できません。

これまでスターさんはずっと無敵の存在として宇宙の平和を守ってきました。

不動さんもジャドウさんもカイザーさんもその強さやカリスマに惹かれて流派に入り現在進行形で鍛えているのですけれど、追い付くことはとてもできないと言います。

しかも時空操作能力をもって指を鳴らすだけで瞬時に世界の時間を止めることもできますから怖いものなどないと思いますけれど、もしかするとこの広い宇宙にはスターさんよりも強い存在がいるのかもしれません。

スターさんはペペロンチーノを食べ終わって口をナプキンで拭ってから星のように輝く瞳でわたしを含めた弟子全員を見回して。


「諸君! わたしの後継者は誰がいいと思う?」

「ええっ」


思わず驚きの声が出てしまいました。

なぜってスターさんは後継者を決めている前提で話していると思っていたからです。

それが決まっていないなんて、そんなことがあっていいのでしょうか。

いえ、スターさんならどんなことを言っても不思議ではありません。

誰も行動が読めないぐらいに自由人ですから。


「誰でもいいんじゃねぇの? 誰がなっても立派に後を継げらぁ」


これまで黙っていたロディさんが言いました。


「スターには安心して隠居してもらって、その分を俺たちが頑張りゃいいんだよ」


ロディさんの中ではスターさんは隠居することになっているそうです。

でも、誰でもっていうのはちょっとどうかと思うのですけれど。

ロディさんはハンバーガーをぺろりと食べてから口を開きます。


「誰かひとりにトップを固定するってのは俺ァ賛成できねぇな。動きが硬くならぁ。

状況でリーダーを変えるって方針にしたほうがいいんじゃねぇか。臨機応変に対応できるし、もしかするとここにいない連中がトップに立ちたいって思うかもしれねぇし」

「すごいです、ロディさん」

「ありがとよ、美琴ちゃん」


普段自分のことをバカだバカだと言っているロディさんですが、ひょっとすると彼は頭がいいのではと思えてきました。


「ロディ君の意見も一理あるね。今回は大人のメンバーだけ集めたけど、他の子がやりたいって立候補するかもしれないし。じゃあ、それでいこう。わたしが不在や万が一のことがあったら会長を決めて、指示に従うこと。それでいいかな?」


わたしは頷きました。不動さん、ロディさん、ジャドウさんも異存はないようです。

ここでずっと無言を貫いてきたカイザーさんが重い口を開きました。


「スター様。その際は私以外の選出を願いたいのです」


カイザーさんはどんな時でも威風堂々として声も深く低くよく響きます。

彼がよく通る声で意見を口にしますとスターさんも頷いて付け足します。


「カイザー君以外で。わかったかな?」


わたしを含めた他の四人が同時に頷きました。

カイザーさんには基本的に頼ってはいけないというのが流派の共通認識です。

怪獣や異世界から侵略してくる人々が現れた際も彼には頼らず、それ以外の皆で解決しなければなりません。

スター流格闘術の最終兵器。それがカイザーさんのポジションなのです。

話し終えたスターさんは目を輝かせて笑みを一層深めました。


「これからどんな子が会長として腕をふるうのかわたしはとても楽しみだよ!」

「スター様。あくまでも万が一のときですぞ。これまでも、これからもスター流格闘術はスター様を頂点として活動しますからな」

「それもそうだね。ハハハハハハハハ!」


高らかに笑うスターさん。

ジャドウさんはスターさん以外の誰かに仕えることなど考えたくないようです。

わたしのオムライスもようやく届いておいしく食べることができました。

大事なお話が終わってリラックスしたあとの食事はよりおいしい気がします。


「これからもスター様の偉大なるご活躍に乾杯!」

「乾杯!」


ジャドウさんが音頭をとり、彼以外の全員はオレンジジュースで乾杯をしました。

いつの間にか話がすり替わっているような気もしますが、それでいいのかもしれません。ムースさんのお土産として苺のショートケーキを購入してわたしは帰路につきました。

スター流の大人メンバーが大集合なんて滅多にないことで嬉しかったので、これからは重要な話とか関係なく一緒に集まってお喋りをするだけでも楽しいだろうなと思いました。


おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

喫茶店でスター流メンバーが大集合します! モンブラン博士 @maronn777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ