こんなに“めちゃくちゃなのに面白い”ミステリーは初めて読んだ。
- ★★★ Excellent!!!
物語は、世界的なクローン研究者・鈴木教授の死亡事件から始まる。しかし、集まってくる捜査資料は――同じ事件なのに、全部内容が違う。
「激突された」「衝突された」どころか、「教授がトレーラーへ挑んだ」「教授と運転手の両方が天使のラッパを聞いた」まで登場するカオスぶり。これだけの矛盾を“笑い”と“不可思議さ”の両方を保ったまま展開させられる筆力にまず唸らされた。
主人公の田中警部補の反応がまた絶妙だ。
常識的にツッコむかと思いきや、老眼を疑い始めたり、自分のドッペルゲンガーの仕業だと思いこんでみたり、鼻から牛乳事件まで思い出す始末。読者の「え、どういうこと?」という気持ちを完全に代弁してくれながら、同時にストーリーをテンポよく転がしていく。
そして本作の魅力は、単なるギャグに終わらない点だ。
「同じ事件が複数のバージョンで存在する」という異常が、途中から笑いを超えてじわりと不気味さを帯びてくる。
資料だけでなく、スマホの記録や写真までもが変質していく現象は、“世界のほうが狂っていく”感覚を読者に与え、ミステリーとホラーの中間のような新しい読書体験になる。
何より、作者の文章センスが素晴らしい。
テンポよく畳み掛ける言葉遊び、主人公の勘違いの膨らませ方、読者の予想をひっくり返す展開、それでいてストーリー自体はずっと「捜査モノ」らしい緊張感を保っている。
この独特の空気感は、他のどの作家とも似ていない“唯一無二”だと言っていい。
ミステリーを読み慣れた人にも、ユーモア小説が好きな人にも、そして「型破りな物語に出会いたい」人には全力でおすすめしたい一冊。
続きがあるなら絶対に読みたい。