あまりにもあっけなく“成約”できた。

 画面の左上の時計を確認すると取り付けた“約束“まで、まだ1時間以上ある。


 念のために早めにアポイント場所へ行って様子を確かめよう。

 スマホをテーブルに置いて紙コップのコーヒーに手を伸ばしたその瞬間、サッ! とスマホを奪われた。


「あっ!!」


 まだロック状態になっていなかったスマホの中身は“奪った男”に易々と見られてしまった。


「古市クン!」


 佐奈の声は震える。


「見たの?」


「削除した」


「勝手な事しないで!!」


「困ってるならオレを使えばいいだろ?!」


「あなたには関係ない!!」


「ある!!大ありだ!」


「どうしてそんな事を言うの? ただのアッシーのくせに!」


「アッシーはもう辞めた」


「じゃあ あなたの価値はもうないわ! スマホ返して!!」


「返すのには条件がある」


「『清楚になれ』とか言ってもムダよ!」


「もっと簡単な事だ!」


「何よ?!」


「結婚してくれ!!」


「はああああ????」



「心が弱っているこのタイミングでこんなこと事を言って来る男! それってズルくない?!」


 呟く言葉がそのままポコン! と浮き上がって来るみたいな勢いで、心の中を血が通って来る。


 ああこれが

 きっと

“恋”ってものの

 入口なんだ。


 いつしか燈真の胸を涙で濡らしながら

 佐奈は初めて知る心地良い幸せに身を預けていた。




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百人目はプロポーズ 縞間かおる @kurosirokaede

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