第41話 🐚 陸奥湾に沈む、戦車の影

 2041年、春。 日本は情報統制が厳しくなり、過去の地方史や戦国時代の記録の一部が、国家安全保障上の理由で閲覧制限を受けていた。特に、本州と北海道を結ぶ海峡地帯の歴史、**「蠣崎蔵人の乱」**に関する記録は、政府のデータベースから事実上消去されていた。

​ 歴史研究家で、地下の歴史情報ネットワークの主宰者である**鷹山トシキ(35)**は、その消された歴史の真相を追っていた。

​「蠣崎蔵人の乱……この乱が、蝦夷地(北海道)と本州の未来を決定づけた、最も重要な事件のはずだ。なぜ、政府は、この**『歴史の結末』**を隠そうとする?」

​ トシキは、地下ネットワークから得た古い地図と、暗号化された伝承を頼りに、本州最北端の地、青森県むつ市へと向かった。蠣崎蔵人が、最終的に討伐された場所、陸奥湾の辺境である。

​ トシキは、むつ市の大湊港近くの、古びた漁村にたどり着いた。彼は、漁師の老人から、口伝に残る蠣崎蔵人の話を、なんとか聞き出そうとしていた。

「蠣崎蔵人か。そりゃあ、**『海の王』だよ。津軽海峡を支配し、本州と蝦夷地を一つにしようとした、最後の武士だ。しかし、奴は、『南の巨大な力』**に潰された……それ以上のことは、知らねえ」

​ トシキが、さらに核心に迫ろうとしたその時、漁村のラジオが、けたたましい緊急警報を発した。

​「**【緊急警報】**むつ市周辺に、不審な情報収集活動を確認。全住民は、屋内へ退避せよ。秋田駐屯軍、警戒態勢へ移行!」

​ トシキは、顔色を変えた。彼の情報収集活動が、政府軍に察知されたのだ。

​「秋田駐屯軍……よりによって戦車軍か!」

​ 秋田に駐屯する国防軍の部隊は、主に重武装の機甲部隊であり、その権限は、近年、北海道方面への情報流出を防ぐため、極度に強化されていた。

​ トシキが漁村の裏山へ逃げ込んだ、その直後。

​ 轟音!

​ 地響きと共に、最新鋭の主力戦車(恐らく、90式または10式を改良したモデル)が、漁村の狭い路地を破壊しながら、数台出現した。戦車の砲塔は、正確にトシキの逃げ込んだ山を向いている。

​ トシキは、息を切らしながら山を駆け上がった。彼の目の前には、広大な陸奥湾が広がっている。

​「ちくしょう!完全に包囲されたか!」

​ トシキが振り向くと、山道の入り口を、戦車の部隊が完全に塞いでいる。先頭の戦車から、冷徹な声がスピーカーを通して響き渡った。

「鷹山トシキ。これ以上の逃走は無意味である。即刻、投降せよ。**『蠣崎蔵人の乱』**に関する情報は、国家機密に指定されている」

​ トシキは、絶望的な状況に追い込まれた。武装した軍隊、それも戦車という圧倒的な暴力に対し、彼はただの歴史研究家に過ぎない。

​「蠣崎蔵人も、こんな圧倒的な暴力に屈したのか……!」

​ 彼の頭の中で、隠された歴史の結末が、彼の現在とオーバーラップする。彼は、陸奥湾の冷たい海を背にして、逃げ場を失っていた。

 ​鷹山トシキは、秋田の戦車軍に包囲され、絶体絶命の窮地に陥った。

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リアル戦国時代 鷹山トシキ @1982

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