第6話 夢と今

 これはリリが夢で見ていた事である。


 ……初めて殺人を犯したのは七歳の時だった。

 両親に見捨てられ、親代わりにのような存在になったから命令されて、ガリガリでビックリする程、力の変わらない二十五の男を殺した。

 武器は『いつでも手軽できるように』と包丁を指示され、包丁を貰い、逃げ回る男を必死に追いかけ背中をぐさりと刺した。

 今でもよく感覚を覚えている。

 手も刺した箇所も。

 男がどんな事をしたか知らないが、悪人であることは確からしい。

 ……師匠はクズであるが、一つの事以外は嘘はつかなかった。

 でも……そのたったの一つの嘘が きっかけで、今でも師匠を─────程、─────。




「おーい。リリちゃん?」

 

 私服を着ているゼルゼの声で目が覚めた。

 昨日の疲れがまだ残っていたようで、そのせいでこの四人乗りの車の中でうたた寝していたらしい。


「まだ、吸血鬼に成り立てだからな。体力が一時的に落ちてたんだろう。ま、すぐに回復する」


 イレクが運転しながらタバコを吸っていた。


「ってかイレクのおっさん。タバコ吸ってていいのか? 運転中だろ?」

 

 隣の助手席に座るラノがそう言った。

 ちなみにリリはイレクの後ろの席、ゼルゼはラノの後ろでリリの隣。

 

「いいだろ。違反じゃねぇんだし」

「でも、危ねぇんじゃねぇの?」

「あー、そういうことは気にすんな。俺たちは吸血鬼だし、事故っても大丈夫だろ」


 イレクが余裕の表情を浮かべる。

 するとゼルゼが首をかしげつつ、両目を閉じて。


「でも……この車……確か高級だったはず──」

「っておっさん!! 前!!」


 ラノがとっさに叫び、車は急停車。


「あぶねぇ……」


 前方不注意で前の車にぶつかるところだった。


「おい、気を付けろよ!!」

 

 前方の車の運転手が窓を開けて、イレクを見て叫ぶ。


「ふざけてんじゃねぇぞ!!」


 今度は後方の車の運転手が窓を開けて、イレクを見て叫ぶ。

 イレクは前へ後ろへ、ペコペコ頭を下げていた。

 そして、前方の車が普通通り進み始めたので、イレクも車を進め始めた。


「……おっさん。まったく、気を付けろよ……というかうちも運転できるし、変わろうか?」

「いや、いい」

「えー……僕、イレクの運転怖いよ……」


 ゼルゼが顔を前に出して、不満をあらわにした。


「……あ! そういえば、新人! ナイトメア家とフォールの関係、それにルルアの目的について説明しないとな!」

「このおっさん。話題そらしやがった」

「……ホント、ひどいよね。でも、リリちゃん、これは聞いておくべきことだよ」

「……まあ、こんな意見はおいといて、現在我々ナイトメア家はフォールと敵対関係にある。理由は単純明快。俺たちがフォールを潰したいたくて、所々に点在する拠点を潰しているからだ」

「……あの、なんで潰してるんですか?」


 するとまるで、いいところに気がついたと言いたそうなくらい胸を張ってイレクはこう答えた。


「それはフォールは悪人の吸血鬼だけで構成されていて、それが原因でナイトメア家と協力関係にある組織がフォールの殲滅を望んでいて、それをナイトメア家に依頼したのが発端だ。だが、ルルア……そして、ナイトメア家にはもう一つ戦わなきゃいけねぇ理由がある」


 すると絶対に真似しちゃいけないのだろうが、イレクはタバコを窓から捨ててこう続けた。

 ちなみにそれにゼルゼとラノは絶句していた。


「……ルルアは、この世で初めて吸血鬼になった真祖の吸血鬼の十三人の末裔……通称“十三の吸血鬼”の一人でな……まあ、これがルルアの目的でなんだが、ルルアはなぜか他の十三の吸血鬼を殺したがってる。そして、フォールのトップは十三の吸血鬼の一人だ。要は依頼されたし、トップが殺したい十三の吸血鬼の一人だからという理由でルルアが頂点のナイトメア家はフォールと戦ってる訳だな。分かったか?」





 

 






 

 

 

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