第5話 ナイトメア家4

 その微笑みは今まで見たどんなものよりも可憐で見とれてしまった。


「おい、新人。お嬢を見つめ過ぎた」


 エリスがタバコを吸いながら注意してきた。


「あ……ご、ごめんなさい」


 とっさに両方を見て、両方に謝る。


「いいよ、エリス。こんなかわいい子に見つめられたら悪い気分じゃないし」


 そこにローストビーフを丸かじりするゼルゼが反応した。

 

「え! じゃあ、リリちゃんと同じくらい、かわいい僕がルルア様を見つめても、ルルア様は同じ気分を抱くでしょうから僕にも同じ感情を抱いていたですのか!?」

「違うよ」

「ええーーーー!!」


 ゼルゼは口を大きく開けて大きな声をあげた。


「ゼルゼ、うるせぇぞ」


 ローストチキンの足を丸かじりするイレクが注意した。

 そして、サラも続いた。


「ゼルゼちゃん、まあまあ落ち着いて。ほらなでなで」


 ゼルゼの頭をサラは優しく撫でた。


「あ、落ち着いた」

「いや、落ち着くの速すぎだろ!」


 ラノがつっこむ。


「あらら、今夜も愉快だなぁ……そういえばリリくん、冷めちゃうし、速く食べてね」


 ヨゾラがなぜかこちらに鋭い視線を向ける。


「あ……はい……」

「リリくん、ヨゾラの手料理には気をつけた方がいいよ。腕は超一流だけど残しでもするとそこら辺の吸血鬼より遥かに怖いから」

「もう、ルルアちゃん。そんな言い方ないじゃない……!」

「いや、事実だぞ」

「うん、イレク。事実だね」


 イレクとゼルゼがそう言うと、ヨゾラは……。


「へぇ……そんな二人はものすごくお行儀の悪い食べ方してるのに?」


 あの時、襲ってきた名の知らない吸血鬼より遥かに怖い視線を二人へと向けた。


「「……」」

「あら、だんまり?」

「「この度は誠に申し訳ございませんでした」」


 二人はヨゾラにめちゃくちゃ汗かきながら謝った。


「まあ、その辺にしろよ。今回は俺たちも手伝ったんだ」


 エリスがフォローに入った。


「……まあ、そうしてあげますか」

「「この度はヨゾラ様の寛大な心に感謝します」」

「ヨゾラってそんなに偉いヤツだっけ?」


 ラノが疑問符を浮かべた。

 

「……ところでルルア、あの“フォール”の件はどうなったの?」


 少し間を置いて、サラがルルアに問いかけた。

 サラの一言で場は静まる。

 フォール……リリが所属していた取り立て屋を裏切った上の組織の筈。


「まあ、とりあえず情報面で大きな収穫はナシかな……。でも、明日フォールの支部を一つ攻めようと思う。吸血鬼に成り立てだけどリリくんにも参加してもらうおうと思ってるだけど……リリくんいいかな?」


 リリはすぐ返事をした。


「いいですよ」 

『返事、はやっ!!』


 ルルアとサラ以外の五人が驚いた。

 

「だって……フォールは僕を裏切りました。それに僕は元々、悪人を殺す経験は多いですし、急な殺しの依頼もありましたから。これぐらい平気です」

『…………』


 今度もルルアとサラ以外、驚きを隠せないようだった。


「なんか……お前特殊だな……」


 ラノが額に汗をかきながらそう言った。


「リリくんの経歴を調べてたけど、彼はずっと普通とは違う環境で過ごしてきた。なんというか……人間時代から表じゃなく裏の世界で暮らしてきたって言えばいいかな?」


 首を傾けながらルルアが言った。


『……』


 少しの沈黙が場に響いた後。

 ゼルゼが口を開いた。


「……でも、僕たちも、もう長い間裏の世界で生きてるし、まあいいんじゃない? ねぇ、みんな?」

『確かに……』


 なんか納得して、ルルアとサラ以外、そう口から声が漏れていた。


「……まあ、深く考えないで。裏の世界ではリリくんと同じ境遇の子、多いから。じゃあ、冷めきる前に速く食べ尽くしちゃおう」


 一旦、その場はルルアの言葉で、元の雰囲気へと戻っていき、結果リリは食べたことの無い程美味しい料理を食べ、シャワーを浴びた後、案内されたたまたま空いていた部屋としては豪華で今後自室になる部屋のベッドにて横になった。


 





 


 

 



 




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