第4話 ナイトメア家3
「あ! ご飯、持っていくの手伝いますよ!」
「俺も手伝うぜ」
するとゼルゼとエリスがキッチンに向かった。
「とりあえず、いつも通り夕食にしようか。リリくんはとりあえず私の隣でいい?」
「わ、分かりました」
なんだか、こんな素敵な少女の横に座れるなんてとても幸せに感じる。
いや、ここで暮らしていくのだからこれくらい慣れなければ……。
キッチンに居る三人以外円卓の周りに置かれた席に座り、キッチンに居る三人は料理を置いていって残った席に座った。
というかあれ?
「あの、ゼルゼさんとエリスさんは従者の筈なのに座るんですか?」
なんか、普通従者はあるじの後ろに構えていそうなものなのに。
「従者も一緒に食卓を囲むのがうちの代々の決まりだし、私もそっちの方が好きだしね。まあ、慣れていってよ。後、ゼルゼにはさん付けじゃなくてくん付けかちゃん付けがいいと思うよ」
ルルアに続けてゼルゼが。
「そうです! そっちの方が嬉しいです!」
と言った。
「うん……分かったよ。ゼルゼくん」
とりあえずくん付けにした。
「それよりも今日の夕食、豪華だね」
サラがそう言って、リリは円卓の上に置かれた料理に注目する。
真ん中にはドでかいローストチキンとローストビーフ。
周りにはアクアパッツアにエビとレタスのサラダが九人分。
コーンスープまである。
後、ワインボトルが三本。
……正直ここまで豪華な夕食は初めてだ。
ビックリである。
「だって、新人歓迎会だもの。それに今日はゼルゼくんとエリスにも作るの手伝ってもらったしね」
ヨゾラが誇らしげに言う。
三人でもここまでの料理を作れるものなのか……吸血鬼って凄い。
「二人とも、今日は時間があったんだな。つーかサラ……まだイライラするんだけど?」
「イレク、もういいじゃん。とりあえず食べよ」
するとサラがローストビーフを切り、それぞれに置かれた小皿に運んで食べ始めた。
だが、そんなことより……得体の知れない飢えが止まらない。
「……あ」
気づくとよだれが垂れていた。
「ありゃ……速く血を補給しなきゃな、おいエリス」
「ラノ、分かってる」
エリスがワインボトル一本を開け、リリの前に置かれているワイングラスに中の液体を注いだ。
──しかしこれは明らかに人の血だ。
吸血鬼だから人の血を飲まないといけないのは分かる。
とはいえ、いざ目の前にすると……。
「大丈夫だよ。殺してもいいような悪人の血だから」
ルルアが言葉の内容にしてはあまりにも優しく声をかけてきた。
「いや、でも……」
でも、戸惑いが止まらない。
それに言葉の意味を考えるとナイトメア家は人を殺している。
「まず、リリくんに言っておくと、私たちナイトメア家は善じゃない。リリくんを助けたのは事実だし、私たちはある人間と吸血鬼が手を取り合う組織に協力している。でも、悪人のみとはいえ人を殺す。私以外、元人間だけど、その七人はもう人間として生きていない。私たちはまあ、人間にとっては善よりの悪かな」
「……そうなんですか……」
色々と飲み込めない。
ただ、ルルアはリリの命の恩人であり、おそらく口調から嘘には思えないが、悪人しか殺さず、どこかの組織に協力している。
そして、もう──己は人間の血を飲まないと生きていけない。
覚悟を決めるしかないようだ。
リリは人間の血が入ったワイングラスを手に持って……血を飲み干した。
「……え?」
まず言えるのは、これは今まで、口にしたものの中で最も美味い。
肉のようであり、だがさっぱりしていて、口が溶けてなくなりそうだ。
「いいね。ちなみに外に出る時は牙を隠すように。ほら見てて」
ルルアが一瞬にして牙を隠し、まるで人間にしか見えない口元に変わる。
「牙に力を入れて、隠すように頭へと念じると簡単にできるよ」
彼女は笑顔で微笑んだ。
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