『これ以上は2人じゃないと無理ですわ。』 〜婚約者の従妹がデートについてくるので、元祖あざと系の私が返り討ちにしました〜

間宮芽衣(ブー横丁)

『これ以上は2人じゃないと無理ですわ。』 〜婚約者の従妹がデートについてくるので、元祖あざと系の私が返り討ちにしました〜

「ごめん。アンジェ。


 従妹のマーガレットがどうしてもアンジェに会いたいって聞かなくて。


 この子は同性が苦手らしいんだけど…、君とだけは話せる気がするって言うんだ…。


 そしたら叔母にも連れて行って欲しいって泣かれてしまって。」


眉尻を下げる金髪の美丈夫は、私の婚約者で伯爵令息であるエリオット様。


 今日はエリオット様と私の待ちに待ったデート…の予定でした。


 そして彼に隠れるようにしてしなだれかかる少し地味な令嬢。彼の人見知りな従妹、マーガレット様だそうです。


「…私、女の人って怖くて…。でも、お姉様はお兄様の大切な人ですもの!お姉様となら私、お話し出来る気がするんです…。」


そう言いながら彼女は私の顔を見ずにエリオット様ばかりをチラチラと見ています。


「…まあ。そうなのですね。


 わかりましたわ。」


私の返事に彼は申し訳なさそうに頭を下げました。


「ごめんね。今度必ず埋め合わせはするから。今日は三人で行こう。」


――エリオット様がくるりと後ろを向いた瞬間。


「あーん♡お兄様っ、待ってぇー。」


そう言ってエリオット様にしがみつきながらマーガレット様は私の顔を見てニヤリと笑ったのです。


 そして声は出ていませんでしたが口パクで確かにこう言ってきました。


「お」「に」「い」「さ」「ま」「は」「わ」「た」「さ」「な」「い」「♡」


(…この子っ!!)


その瞬間女同士の戦いの火蓋が静かに切られたのです。


 私はすぐ様この狸女に圧勝する為に策略を練りました。


 ――そう。


 私の前世は日本という国で、『愛の旅行バス』という恋愛バラエティーで、同乗した男性全員を虜にした『元祖あざと系』インフルエンサーでした。


 はっきり言って私の見立てでは、この狸女の恋愛戦闘能力が十四くらいなら、私の戦闘能力は五十七万くらいです。


(今までの感触からエリオット様が私に好感を持って下さっているのはもうわかっている。


 なら行動を起こすのみよ。)


私は前を歩く二人を見てニヤリと笑うのでした。


◇◇


「エリオットお兄様ー!これ見てっ!」


王都の雑貨店。


 狸女は雑貨を見るふりをしながら、さりげなくエリオット様の手を掴みました。


(ふ。まだまだ青いわね。)


私はそう思いながら、エリオット様の顔に頰がつきそうな距離で肩越しに顔を出します。


「――お二人とも何を見ていらっしゃるの?」


わざと彼の耳元に息がかかるように調節しながら、絶妙な角度になるように計算をして覗き込みます。


「っ、ぅわ、アンジェッ!!

 ち、近っ!!」


エリオット様のお顔が耳まで真っ赤に染まります。


 彼が振り向くと、唇がもう少しで当たりそうな絶妙な距離。


 その距離感で上目遣いに彼のことを見つめます。


「――っ、ぁ、」


「…たまには私も、かまって頂きたいですわ。」


耳元でそう囁いて名残り惜しそうに離れました。


 エリオット様が呆然と私を見つめる中、マーガレット様はキッと私を睨みつけてきました。


(あらあら、まだやる気なの?


 ――いいわ。受けて差し上げる。)


雑貨店を後にした私達は今度はランチのお店に入りました。


 四人がけの席で何故かマーガレット様がすかさずエリオット様の横を陣取ります。


「きゃー、おいしそうっ!お兄様っ、私のも一口食べて下さい。


 あーん。」


そう言ってなんと、ランチのパスタを一口エリオット様の口元に持っていきます。


「っな、いいよ。さすがに。婚約者のアンジェの目の前だから!!」


勿論エリオット様が焦ったように断っています。


 そのタイミングで私は、テーブルの下でそっとエリオット様の膝の上に手を置き、指を這わせました。


 ちなみに外側からは布で隠れており見えません。


「――っ!!」


驚いたような顔で私を見つめたエリオット様に私はただニコニコと笑いかけます。


「お兄様ー!早く食べて?」


気づいていないマーガレット様は口を尖らせてエリオット様に迫っています。


「…本当にいらないからっ!」


その瞬間、今度は彼の膝の上で指を絡ませました。


 すると、エリオット様がぎゅっと私の指を握り返してきて下さいました。


(…まあ。)


思わず顔を上げると、エリオット様が熱のこもった目でこちらを見ていらっしゃいました。


 一方、断られたマーガレット様は再度キッと私を睨みつけてきたので私は笑顔で返します。


「…あら?マーガレット様。どうしたの?そんなにお顔を歪ませて。具合でも悪いのかしら。」


その言葉にマーガレット様が声を詰まらせてから悔しそうに席を立ちました。


「っ、お花を摘みに行ってまいります。」


こうして二人きりになった瞬間、私はハイヒールを脱いで彼の膝にツゥーッと足を這わせます。


「――っ、アンジェ、」


エリオット様から甘い吐息が漏れます。


 私はクスリと笑ってこそっと彼の耳元に唇を寄せます。


「今のは『二人の秘密』ですわね。」


すると、彼がゴクリと生唾を飲み込みます。


「『二人の…秘密』?」


「…ええ。でも、さすがにこれ以上は『二人っきり』じゃないと無理ですわ。」


言いながら、上目遣いで彼を見つめます。


「――っ、アンジェ、僕は、」


――その時でした。


「戻りました!!ちょっと、アンジェさんっ!お兄様にあんまり近づかないでくださいっ!!」


マーガレット様が私達をぐいっと引き離してきました。


「…僕達は婚約者だから別に少しくらい近づいたっていいだろ。


 大体今日だって本当は僕達で『二人っきり』のデートだったはずなのに。」


エリオット様が面白くなさそうな顔でマーガレット様に言うと、彼女は驚愕で目を見開きます。


「っな!!」


「大体きみ、アンジェと話したいとか言っておきながら話しかけるのは僕だけじゃないか。」


エリオット様の言葉にマーガレット様が目をうるうるとさせて泣きそうな顔になります。


「っ、な!そんな、お兄様、ひどいですぅー、」


その言葉にエリオット様が溜息を吐きました。


 そして、小さい声でボソリと


「あー…。…もう。面倒臭いな。」

と呟きました。


(うふふ、もう一押しですわね。)


私は内心ほくそ笑むのでした。


◇◇


 食後、私達は王都内にあるバラ園に来ました。


 バラ園は今は夏休み中ですが、平日だからか私達以外にお客様は誰も見当たりません。


「すてきぃー!!ほらっ!お兄様も来てー!!」


そう言いながらマーガレット様が一人で走り出しました。


「はー…。やれやれ。」


ため息を吐いてエリオット様が追いかけようとした時でした。


 グイッ!!


 私は彼のジャケットの袖をさりげなく引っ張りました。


「――アンジェ?」


驚いた顔で振り返ったエリオット様の手を私はそっと両手で包み込みます。


「行かないで?」


私は自分が一番かわいく見える角度を計算して首を傾げながら上目遣いでエリオット様を見つめます。


「っ、アンジェ、」


そして、植物に隔てられてギリギリマーガレット様が見えなくなった瞬間、背伸びをしてちゅっと彼の頬に唇を寄せました。


「なっ、」


エリオット様が頰を手で押さえながら耳まで赤くして私の方を見つめてきます。


 すると、私の頬に震える熱い指先を這わせてきました。

 

「うふふ、エリオット様の手、大きくて素敵ですわ。

 …これも『二人の秘密』ですわね?」


――私がそう言った瞬間、ついにエリオット様の理性が崩壊しました。


「――っ、」


彼は息を詰まらせたあと、切羽詰まったように物陰に私を抱き寄せてキスをしてきました。


「っん、エリオット様っ、」


私は熱い吐息を漏らしながらエリオット様を見つめたあと、ニッコリと美しく微笑みました。


「…だめですわ。マーガレット様もいらっしゃいますもの。この続きは『二人っきり』の時ですわね?」


「っ、アンジェ、」


エリオット様が息を呑んだその時でした。



「ねーーー!お兄様!早く来てーーー!!!


 何してらっしゃるんですか!!」


マーガレット様の叫び声が聞こえてこちらの方にズカズカと向かってこられました。


 その叫び声にエリオット様がぷるぷると震え出しました。


「――っ、ふざけんなよっ!!」


普段のエリオット様からは想像出来ないような怒ったお声でした。


「えっ、え、え?!」


マーガレット様は何が起こったかわからないようなお顔をしています。


「君がいるせいで!!アンジェと!!


 全然!!イチャイチャ!!出来ないじゃないかーーーーー!!!!」


その言葉にマーガレット様はあんぐりと口を開けています。


「さっきから良い所で僕を呼びやがって!!くそっ、くそっ!お陰でさっきからずっと寸止めじゃないかっ!


 一体なんなんだ君は!!!」


(うん。貴方の従妹です。)


私はニコニコと笑いながら心の中でツッコミを入れます。


「だって!だって!!」


そう言いながら、マーガレット様が泣きそうになっています。


「っもう我慢出来ない!!」


そう言って、エリオット様が私をグイッと引き寄せるとマーガレット様がいるのにも関わらず、何度も何度も熱いキスをしてきました。


「あ、だめですっ、ん、エリオット様っ!」


私が潤んだ目で見つめると、彼はギラギラした目で見つめてきます。


「ダメじゃないっ!あの子のことはいなかったものだと思おう!


 うんっ!そうだ!僕らは今『二人っきり』だ。」


エリオット様はもはやよく分からない理論を言いながらどんどんその唇は熱を帯びていきます。


 ――その様子をマーガレット様が涙目で見ておりました。


 こうして『女同士の戦い』は無事私の完全勝利で終わったのでした。


◇◇


 ――数日後。


「アンジェっ!」

「エリオット様!!」


私はエリオット様と今日は二人きりで待ち合わせをしております。


「――ねえ。アンジェ。今日は本当に『二人っきり』だね?

 だから、その…。」


頰を赤らめる彼の唇にそっと私は指先を這わせます。


「――ええ。『二人っきり』で続きをしましょうか。」


「――っうんっ!」


こうして彼の自称内気な従妹は二度と私達のデートに現れることはなくなりました。



fin.

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