プロローグⅢ
しばらくして、天草と勘解由小路の二名が書類を片手に戻ってくる。
それは検査結果が記されたものであり、その内容を見た三人は驚愕した。
「――【変異強化】?」
「ええ。〝異能〟の体系化は非常に難しいのですが、これはいわゆる強化系……身体能力を向上させるモノですね、はい。彰様の場合ですと、ええと、変異とありますので、……個人的な見解ですが、強化の仕方や対象に関してかなりの自由度があるのかと、思う次第です、はい。」
「加えて、初期の段階でランクⅣという高い強度で検出されました。通常、目覚めたばかりの〝異能〟はⅠかⅡ……これは才能と呼んでも差し支えない数値です」
そう、通常では有り得ない強度の〝異能〟。
〝異能〟は現実改変能力であるという説が有力視されているため、どれだけ世界に影響を及ぼせるかによってランク……つまり強度が定められている。
彰に発現した【変異強化】はランクⅣの〝異能〟であり、使い熟せば都市一つを攻略することだって可能だ。
「ランクⅣの目安ですが、一〇階建てのビル一棟を自由自在に操れる程度とお考えください。彰様の〝異能〟ですと、丸ごと強化タングステン並みに強化したり、逆に脆くして崩壊させたりと、そういった芸当も可能なはずです、はい」
現実離れしすぎていて言葉が出ない雅楽一家。
本人ですら「……へ?」と間抜けな声を漏らしているのだから、余計実感しづらいのだろう。
「ですので、我々公安警察対不死課は雅楽彰様の保護と〝異能〟の鍛錬を行い、対不死者を見据えて設立された部隊へ配属したいと考えております」
「……なっ」
「もちろん、同意無く従事させるつもりはありません。しかしメリットは提示できます」
差し出されるのは数枚の書類。
雅楽彰を公安警察対不死課へ推薦する紹介状……つまり、就職のための書類だった。
プロフィール等を記入する履歴書が一枚と、福利厚生が纏められた用紙が一枚、契約書と同意書が一枚ずつ。
「公安、それも危険を伴う部署への配属となりますので、給与や保険、補助金などに関しては融通が利きます。結論が出ましたら、こちらの書類を警視庁本部へ郵送してください」
注意事項等は同意書に記されているため、熟読する必要があるだろう。
高い給料や充実した福利厚生というメリットと、命の危険というデメリット。何を優先するかで彰の人生は大きく左右される。
「彰……」
彰は契約書を読んでいて思う。自分は何のために働いていたのかと。
それは、両親の負担を少しでも減らすためだ。
今の時代、とかく金が掛かる。家賃、水道、ガス、電気、ネット。食費や交通費、各種税金。彰はアルバイトでの収入で賄える部分を賄っていた。
(俺にそんな価値あるか分からないけど、これに名前を書けば、少なくとも不自由はしなくなる……)
「では、地上階まで送りますのでこちらに――」
「ぁ、あの…………入ります」
「彰!?」
両親が驚くが、彰は首を横に振って自分の意志を示す。
「お金が……欲しいので。これって、家族も適用、されるんすよね」
「ええ、適用されます。ですが、よろしいのですか? 誘った私が言うのもなんですが、対不死課は命が幾つあっても足りなくなるほど危険な部署です。人生を棒に振るような選択ですよ」
勧誘するつもりが無いのではと思うような言い草だが、それは彰の身を案じてのことだ。
公安警察は警察の中のエリートだが、対不死課は人ではなくアンデッドや不死者を相手にするため、殉職率が極めて高い。運が良ければ生き残り、悪ければ死ぬ。
アンデッドですら危険だというのに、敵には〝異能〟を自在に扱う不死者までいるのだから。
そんな脅し文句を聞いてなお、彰の意志は揺るがない。……少し微妙にぐらぐらしているが、やっぱやめたと言うほど大きな揺らぎではない。
「それでも、入ります。入るしか、選択肢ないでしょ……」
「……そうですか。では、そのように手続きを進めます」
そもそも、一般人ですら命の危険があるのだ。警察や自衛隊が奮闘しているお陰で比較的安全とはいえ、先日のように街中にアンデッドが侵入することだってある。
だったら、少しでも〝異能〟を鍛えて強くなれる――生き残る確率を上げるほうがいい。
少なくとも、お金に苦労することはなくなるのだから。
(父さんと母さんには悪いけど……仕方ないんだ)
元々、就職先が見つかるか、貯蓄に余裕が生まれれば自立するつもりだった。それが少し早くなっただけだと、彰は両親を説得する。
こうして、青年の将来は決まった。こうして、物語は始まっていく。
根暗な僕とネクロな君 こ〜りん @Slime_Colin
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