螺旋状の孤独【短編小説】

Unknown

本編【1500文字】

 11月19日。平日の真夜中3時半。

 俺は部屋の隅で胡坐をかいて、ぼーっとしながらテリアのリッチレギュラーを吸っていた。(アイコスという加熱式タバコ)


「……」


 俺は口から、アイコスの煙を無表情で吐いた。

 ここ最近俺は死にたいと真面目に考えている。

 非常に乱雑な感情が絡み合いごちゃごちゃした心の中。それを端的に表すなら、「疲れた」という言葉が当てはまる。

 もう疲れた。

 全てがどうでもいい。

 俺はアイコスを吸いながら、過去に人間関係において俺が犯した罪を何個も思い返していた。そして陰鬱な気分になり、酒でも飲んでしまおうかと思った。

 俺はもう人間関係での失敗をしたくないから、しばらくずっと断酒している。

 アルコール依存症はれっきとした精神疾患だ。患者は脳の構造自体が変異してしまっていて、常に酒を渇望するようになる。その治療法は、「酒を一滴も飲まない事だけ」であり、つまり苦しみを耐えるしかない。


 ◆


 玄関で黒いサンダルを履いてアパートの外に出た。

 寒い。

 俺は上下ともに真っ黒のぶかぶかのスウェットだった。

 真夜中、1人で外に出たはいいが、俺には目的地が無かった。

 俺は、死に場所を探すことにした。

 そういえば今年だか去年だか忘れたが、本当に俺のアパートのすぐそばの川で転落死“事故”が起きて、俺のアパートにも警察官が聞き取りに来た。

 でも、あの川は橋から地面までの距離が近すぎる。あそこで死ねるという情報を得ているのは大きいが、運が良くないと死ねないはずだ。どうせならもっと高い場所が良い。

 俺は、ふらふら徘徊し始めた。

 歩道橋が見えるが、あそこから飛び降りるのは車に迷惑だ。

 俺は10分ほど歩いて、最寄り駅に着いた。だが今は深夜だから電車は走っていない。

 ……俺は何してんだろう。

 結局、俺はアパートに帰ることにした。

 寒い風を浴びながら、俺は来た道を戻っていった。


 ◆


 2階へと続く階段を上がり、ドアを開け、玄関でサンダルを脱ぎ、俺の部屋に入る。

 俺は1人ぼっちだった。

 俺は、部屋の隅まで歩いて、壁に背を預けるように座った。

 そしてアイコスを吸い始めた。

 

「……はぁ」


 溜息と共に煙を吐き出した。

 数えきれない乱雑な感情が、螺旋状に積み重なった孤独を中心に蔦のように絡み合う。過去が俺を絶望させる。未来は俺に絶望だけを見せる。心の中が、とてもごちゃごちゃしている。それらを総合すると、死にたいという言葉になる。

 ぼーっとしながらアイコスを吸っていたら、俺の目には涙が溜まって、視界が不明瞭になった。

 涙を手で拭って、目を閉じながら、しばらく俯いた。

 顔を上げて、目を開けると、俺の部屋には俺しか居なかった。


 ◆


 朝。

 在宅で働いている俺は今日の仕事を休んだ。LINEで休みの連絡を済ませて、俺はベッドに横になり、目を閉じた。

 ああ、俺は孤独だ。

 俺の孤独は螺旋階段のように、どこまでもどこまでも高く伸びていく。

 孤独に耐えかねて、俺は虚しい空想ばかりを繰り返す。馬鹿の1つ覚えみたいに。

 イメージは勝手に浮かぶ。彼女は精神を病んでいる。精神科に通っている。俺と同じように。そして彼女は孤独で寂しがっている。俺と同じように。そして彼女は俺という存在によって一定の救いを得る。これは俺が現実で成しえた経験が無い事だ。部分的には他者を救った事がある。でも恒久的に救ったことは無かった。

 何度も、何度も、俺のせいで大切な人を失った。

 やっぱり馬鹿は死ぬまで治らないか。


 ◆


 正午、憂鬱の度合いが最高潮に達して辛抱できなくなった俺はシャワーも浴びずにドラッグストアに向かい、3本の缶チューハイを買って、アパートで飲んでいた。500mlのアルコール度数9%の缶3本。


 あーーーーーー。


 糞が!!!!!!!!


 謎の中国人の女よ、俺を馬鹿だと思うな。俺はお前の孤独を一瞬でも信じたのに。もう優しさなど、この世に必要ないという事だな。








 終わり











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