閑話 裏話
全てが終わってから、数日後、俺は兄貴に呼び出された。
「それで、堕神について、何の話があるわけ?」
兄貴の部屋の椅子に座り、置いてあったクッキーをつまむ。
俺は、兄貴の部屋に呼び出されていた。
堕神について、報告があると言われたのだ。
すでに堕神は浄化され、天に昇って行った。
今更何の話なのか。
「お前から、稀血や人柱の話を聞かせてもらっただろ?それと、吸血鬼達の話を総合して、いくつか分かった事があったから共有しようと思ってね」
兄貴はニィッと笑う。
兄貴から、何故今回こんな事態なったのか、個人的に把握をしたいと言われていた。
堕神の件が解決した後、ひなこ達に許可を得て、兄貴に情報提供した。
吸血鬼一族には共有しないことを条件にして。
「それで、何が分かったの?」
クッキーをもう一枚取りながら、俺が質問すると、兄貴は答える。
「まず、何故堕神の封印が壊れかけたか、からだ」
兄貴は、ホワイトボードに、堕神、吸血鬼、稀血と書き出す。
「始まりは、堕神を根源とする吸血鬼、綾人と、稀血の接触だな」
「俺たちが出会ったから、封印が解けたって事?」
俺は、怪訝な顔をする。
「2つの血筋が出会ったことで、堕神が目覚めるきっかけになった、が正しいな」
まだこの段階では、と兄貴は付け加える。
「封印が解けはじめたのは、2人の血が接触したタイミングだ。
綾人、ひなこちゃんの血を飲んだろ?」
ペン先をこちらに向けられ、俺は頷く。
「その時、お前の血と混ざり合った可能性が高い。
堕ちる前と後、二つの血が混ざり合い、浄化が行われた。この事実が、堕神を刺激したんだろう」
少し、難しい話だけど……。
確かに口の中切れてたから、混ざり合ったかも。
それに、あの頃から、異形が増え出したことを思い出し、頷く。
「確かに……そうなのかも」
兄貴は続ける。
「それにしても……染谷家については驚いたよ。堕神を封印した事、そして受け継いでいた再封印について、全く外部に漏らしていなかったのだから」
兄貴はやれやれ、肩をすくめる。
「堕神が現れてから、数百年経つというのにね。当時から吸血鬼は村に潜り込んだろうに。
染谷蓮も知らなかったんだろう?当主にだけ受け継がれてきたってことだ……大した使命感だよ」
俺は、用意されていた紅茶をふぅふぅと冷ましながら、普通もれるもんなぁと呟く。
……比較するのもあれだけど、蓮も、かなり秘密主義だもんな。血筋だったか、と俺は勝手に納得する。
「我らが吸血鬼としては、堕神が生きているのであれば、確保して色々試してみたかったんだけどねぇ……より絶望を与えて、もっと強い異形を作り出したり、なんて」
「兄貴、その冗談怖いんだけど」
兄貴は、目をギラギラと輝かせながら、そんな冗談を言う。いつも思うけど、兄貴の冗談は笑えない。
それと、と前置きをして、兄貴は続ける。
こういう話をする時、兄貴の話は長い。
そろそろ終わらないかな……と思いながら、真面目目な顔を作る。
「稀血が浄化の力を持っている件。これは推測でしかないけれど……元々堕ちる前の神の血が持っていた能力だった。それが、堕神の力を上回ったって事だと思う。
堕神はずっと異形を生み出し続けていたわけだけど、最初こそ俺たち吸血鬼の始祖を生み出せるくらい強力な力を持っていたが、今では雑魚しか生み出せなくなっていた。今の堕神にだから、効果があったのかもな」
兄貴はちらりと俺の方に視線を向ける。
「稀血についても、もっと調べたいけれど……まぁ、俺は浄化されるなんて御免だから、やめておくよ。綾人に嫌われるのも嫌だしね」
俺の眉間を指でたたかれる。
無意識に、皺が寄ってしまっていたらしい。
兄貴はホワイトボードからペンを離し、俺に向き合う。
「……以上。俺の予測の部分もあるけど、大体あっているとは思うよ」
俺は、少しだけスッキリした気がして、頷く。
「ありがとう。少しスッキリした」
兄貴はニッコリと笑う。
珍しい笑い方だな、と思うと、唐突に言われる。
「稀血の子と、付き合うことになったんだって?」
「な、なんで知ってるんだ?!」
俺は飲んでいた紅茶が変なところに入って、むせる。
「まぁ、情報網はそこら辺に張ってあるからね。面白い子だし、いいじゃないか。退屈しなそうで」
ニコニコ笑う兄貴に、俺は釘を刺す。
「……イジメるの禁止な。俺の大事な彼女だから」
兄貴は、はいはいと言いながら笑い、頷いた。
稀血の少女は夢を巡る あやお @ayao-novel
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます