一章 会合編

第1話 入学式…?


 翌日の朝、昨日の雑誌で気分がいい俺は流れるように準備を終わらし、おっちゃんの車の送迎で中学校を目指していた。

 ちなみにおっちゃんこと剛塚熊雄ごうづかくまおとは、孤児施設で俺の世話をしてくれてる目の前のハゲ頭のことだ。昨日の夜に怒鳴り散らかして来たのもおっちゃんだ。



 俺は車の窓に反射した自分の姿を見る。真っ白なシャツにシワ一つない群青色のブレザー、チェック柄のズボンを着ているだけでこれからの生活に期待と同時に不安も膨らんできた。



「ねぇ、おっちゃん。俺今しっかり制服着こなせてるかな?気になっちゃって…」


「何だ烏河?いつも趣味全開のお前が身なりを気にするなんて珍しい。こりゃ午後から雨が降るかもな」


「そんな訳ないよ。ただ、人は身なりが7〜8割とか何とか言ってただろ?悪かったら中学の同級生に戦少女の素晴らしさを布教できないだろ。それは死活問題だ!最低仲間一人でも見つけなければ…」


「…やっぱそれ関連だったか。はぁ……だと思ったよ、お前はそういうやつだ」



 俺はおっちゃん小言に少し腹を立てつつ車からの風を楽しむことにした。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 それから数分、おっちゃんが俺に聞いてきた。



「…そういえば、お前の言う戦少女ヴァルキリーってやつには何か力があるんだろ?それってどんなのがあるんだ?詳しいことは分からなくてよ」



 分からぬならば、布教するのが現代のマナー。俺は得意げに説明を始める。



 能力アビリティア。それは戦少女であるための絶対的な要素の一つであるもので、それが確認されて始めて戦少女として認められる。

 数十年前から確認される、少数の女性にのみ発現する特別な力のことを指し、現段階では男性への発現は確認されていないらしい。



 また、その能力にも様々な種類があり火や水を操る王道的なものから、自身の身体能力を高めるバフ的な効果を持つものもあるらしい。



「なるほどな。つまりあれだ、RPGに出てくる魔法みたいなもんだな!」


「そうそう、大体そんな認識でいいよ」



 「てことは戦少女は魔法使いって訳だ」と理解を深めていく様子を見て俺は楽しくなる。やはり布教活動はいいものだ。



「それでみんなあのバカでかい学校に通いに行くわけだ。あの…ほら…なんて名前だったかな……」


「あれは学校じゃなくて学園。でももう扱い的に一つの都市に近いけどね」



 国によって能力があると認められた女性は国立戦少女育成学園、通称『箱庭』に転入し教育を受けることが義務付けられている。



 この学園は約7〜80年前に設立された世界機関である『世界戦少女機関(WVO)』の組織のもとに作られた学園で、専門的な教育を受けさせ将来国の未来を守るための人材を育て上げる。



 例だと力を使った実践演習を始めとして、在学時から敵対組織の無力化、国の治安維持活動などが挙げられる。



 そして最大の特徴は何といってもその学園の規模だ。数十の学校に加え大型訓練施設、移動用の交通機関なども兼ね備えているため、国からは一つの"都市"として扱われる程規模が大きいものになっている。

 現に今は首都東京の総面積のうち四分の一を有しており、在籍している生徒はそれぞれの学校の学区に住んで生活をするのが決まりとなっている。



「そして成長した子が俺たちのことを守ってくれる訳だ。ありがたい話だな」


「ほんとだよ。しかも活躍すればその分国からの補助金も得られるってシステムだしね」


「まさに至れり尽くせりだな。俺もこんなとこじゃ無くてそこの学園で学びたかったなぁ」



 「お前もそうだろう?」とおっちゃんが聞くが俺の答えは違う。

 それは俺自身のポリシーに反するからと、そこは昔から散々公言してること。おっちゃんだって何回も聞いてるし、覚えているはず。



「何でだ?もし男になって選ばれたら同じ学園で一緒に生活して友達になれるだろ?」



 はい頭プッチーン、こいつ俺の地雷を土足で踏み荒らしに来やがったな。その言葉を聞いて思わず声を荒げてしまった。



「だからそうじゃねえって!仲良くなるのは違うって何回言えば分かるんだよ!!」


「うおっ!うるせっ!!真後ろで叫ぶんじゃねえよ!!」



 こちらも好きで叫んだじゃない。俺の地雷すら分からずに話題を持ちかけた無神経なそっちが悪い。オレ、ワルクナイ。ゼッタイ。

 


「いい?彼女たちは数ある女性の中でも選ばれた人な訳じゃん」


「おう。その通りだな」


「一方俺は市民な訳じゃん。ただ、戦少女に憧れてるってだけだし、何も特別じゃない」


「そうだな、男だからな」




「そんな高嶺の花みたいな彼女たちと俺みたいな存在が対等に接するのは、俺は受け付けない!」




「………はぁ?」




「何なら俺みたいなやつ無視して絆を紡いでて欲しいの!俺は仲良くなったり、認知されたい訳じゃないの!ただひたすらにモブ的存在として活躍を見届けたいだけだ!!」


「推すのはいい!見守るのもいい!けど関わり合うのは絶対に違う!!」




「めんどくせぇなお前!!」


「推しの存在が幸せに暮らすことを願うことの何がめんどくさいだ!!」



 まず俺が彼女たちに惹かれた理由こそ、未来のために戦ってくれる姿が、戦いに隠された市民の声を無視しない優しさが、写真で見る年相応の笑顔が。輝いて見えたからだ。

 それに加え年相応の、特に中高生の友情や恋心の青春の瞬間が市民の間に広がり、共感を呼び、今の地位を築いてきた。



 テレビでは密着取材、インタビューは勿論、グッズ展開だって本人了承の上で行われる。知名度や人気のある戦少女の商品など店頭に並んだその日には無くなることがデフォだ。



 つまり!戦少女とはもはや日本にとって、世界にとってなくてはならない一大コンテンツの一角を担っているのだ!

 子供受けしやすいヒーロー的魅力と、大人受けするであろう甘酸っぱい百合の青春要素。これらのギャップが上手く組み合わさり、今の地位と人気を築き上げてきたのだ。



 そんな中、百合全開なこの空間に一人、男が混ざり込んだら?彼女たちの展開に水を差す存在が混ざり込んだら?



 そんなもの、言うまでもない。



 昔からの言葉で、百合の間に挟まる男は死すべし。という言葉がある。まさにその通り、針のむしろ状態待ったなしだ。



 何十年築き上げたコンテンツを破壊するような愚行。そんなこと俺はしたくないし、多分誰も望んでない。

 ハーレム築きてぇ〜。とか思ってもそんな汚い欲は表に出すものじゃない。あくまで、心の内に留めておくもんである。



 百合は関わるものじゃ無い。見届けるものだ。イエスラブ、ノータッチ。それこそが俺のポリシーである。これだけは絶対に外せない。



「とにかくハーレムとか絶対にあり得ないね!あまりにも解釈が違いすぎて認められない!」


「男なら少しぐらいハーレムなんかに興味あるもんかと…」


「無いわけではないよ。ただその欲を俺ごときがぶつけていい相手じゃないし、ここは日本。異世界じゃない」


「夢無いこと言うなよ…本当にお前は入所時から変わってねえな。そこまで好きを貫き通せるのは逆に尊敬するぜ」



 小さいとき親が夜逃げして施設育ちになった俺だが、彼女たちの存在を知り、頑張る姿を胸に自分を奮い立たせてたからここまで生きてきた。

 正直、俺の中で戦少女は親代わりの精神的支柱と言っても過言では無い。



 何回も言うが百合は関わるものじゃ無い。見届けるものだ。彼女たち自身が展開を進めるからこそ意味があり、男の手が入った百合など異物混入どころじゃない。



 その禁忌を犯さないためにも、今日も俺は生きていくのだ。



「うし!そろそろ学校着くぞ。降りる準備しとけ」



 新たなる学舎と共に、桜吹雪が散る景色。まるで学校自体が新入生たちを出迎えてくれているようだった。



 だが、何故だろうか。嫌な空気が蔓延っている感覚がした。



(なんで、嫌に静かな気がする…)

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戦少女と描く英雄譚 〜英雄?俺が?解釈違いですね〜 @Yynm_0870

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