The Sad Cafe
縞間かおる
<これで全部>
そのカフェは川沿いの……柳並木の路を挟んだ反対側にあった。
これが桜並木なら、春には窓際にはお客がひっきりなしだったんだろうけど……
どうにも
かく言う私だって、その一人なのだけど……柳の木を眺めながらでは“
いや、ゲイシャの語意が“芸者”ならそうでは無いかもだが……残念ながら『ゲイシャ』とはエチオピアの……とある村の名前らしい。
この“
とまあ、こんな蘊蓄は垂れて(本来は『傾けて』が正しいらしいが)も仕方の無い事なのだが……ジャコウネコの
これはダジャレが過ぎますかね?
さて、今は晩秋。
窓から見える枝垂れ柳の並木は黄金色のベールとなり、川面に映る
そう、川は流れている筈なのに……
それはまるで……
暮れゆく人生の事なんて全く気付かず、ただ目の前の……
“じきに消えてしまうであろう”キラキラ金色のベールに心を預けている自分の様だ。
金色のベールを成している葉は風に吹かれて舞い落ち、降る雨に流され……やがて川の流れに還る。
私はきっと……それを往生際悪くみっともなく嘆くのだろう。
詮無きことなのに!
やらずには居られないのだろう。
ため息が……せっかくのパナマ・ゲイシャの芳香をうやむやにしてしまう。
『ひと時の夢を買おう』と
その現実に……私の指はコーヒーカップの持ち手に通されたまま凍り付き、それに呼応するかの様に、時がカップの中身を冷ましてゆく。
気が付くと……枝垂れ柳が織りなす黄金色のベールが、気の早いクリスマスツリーみたく、青や赤に明滅している。
ああ、通りの信号を映しているのだ。
川だけ無く、クルマや人も流れて行く。
なのに私は……つるべ落としの秋の陽さえ追いかけてはいない。
ふいに……
Eaglesの『The Sad Cafe』が聴きたくなった。
<了>
The Sad Cafe 縞間かおる @kurosirokaede
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