第3話
トール神の正妻は春の守護神・ヘレナだった。
恋敵のシヴァとヘレナは、当然の如く不仲で、神事やセレモニーのたびにいざこざやニアミスが宮廷周辺のマスコミで話題になった。
「冬来りなば春遠からじ」と、シェリーの詩にあるが、
結ばれた際に繰り広げられた、熱烈な恋愛沙汰が語り草になっているトール神とヘレナ神のロマンシング.マリッジ…
そのクライマックスは、母親を誘拐毒殺されて、激怒したトール神が世界を永遠に雪と氷に閉じ込めてしまおうとした時に、ヘレナ神がトールの荒んだ心の厳寒、つまり「冬」に対峙し、氷解融解させる、美しい花や明るい陽光に満ち溢れた「春」というもの、その観念を創造し、現出させる、そのくだりである。
……
氷のように冷酷で、蛇の如く暗鬱なシヴァ神には、その記憶ゆえに固い絆で結ばれているらしいふたりに対する嫉妬ゆえに、美しい自然の花や緑、すべてが再生して輝かしい生命の「萌えいずる」、春というものまでもが、蛇蝎のごとくに憎悪の対象となった
……
あの二人の仲を裂きたい、裂いてやる…❗
もう春などというものが、二度と私たちを結びつけている峻厳で清冽で、何ものをも寄せ付けない強さを本質とする、冬と雪と氷の世界の、トールさまと私の瑠璃色の蜜月を、邪魔しないようにすべてを冬の中に閉じ込めてくれる‼️
高らかに、シヴァ神は、「冬よ…来たれ❗ コレゴル、ディアベル、アメット❗」
と、水晶の魔法の杖を一閃して、禁断の呪文を呼ばわった‼️
…激しい雷鳴が轟き、荒天が真っ白な雪つぶを群舞させ始めた。やがて、すべてが雪嵐に降り込められ、「white out」が訪れた。
……極北のファンタージエンは、「氷河期」になってしまったのだった。
「𝑶𝑾𝑨𝑹𝑰____」
2025年11月15日の日記 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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