最後の日
私はテキストの最後のページを解いていた。
だいぶん古文に慣れてきた気がする。
「正解率上がってるね。一ヶ月頑張ったね」
先生は自分のことのように嬉しそうに笑った。
「先生、ありがとうございました」
私は深々と頭を下げて、次の瞬間ニッと笑った。
「な、何? どうしたの?」
「先生、これ見て!」
私は鞄からラッピングされた袋を取り出す。
「私にくれるの?!」
喜ぶ先生に、
「あ、それは思いつかなかった」
と私は本音を溢した。
「じゃあ、何?」
私は包装紙を綺麗に剥がす。
先生も興味津々といった感じで、私の手元を見つめている。
「へえ、シートマスクだね。これ流行ってるやつなの?」
「うん!」
「友だちから?」
私は、
「違うよ。先生、私、ちゃんと自分で買ってきたんだよ!」
と先生の前でシートマスクの箱を振った。
「こらこら、当たり前のことだからね。そんなな自慢げに言わない」
口ではそう言いながらも、先生はさっきよりも嬉しそうに笑った。
「自分にプレゼントか。それもいいね」
「仕方ないなあ。そんなに欲しいなら先生にも一枚あげるよ」
私が1シート取り出して先生に渡すと、
「じゃあありがたくもらおうかな」
と先生は受け取った。そして、
「今日で先生は終わりだから、今後は智子さんと呼んでね」
と少し照れたように笑った。
私もなんだか照れ臭かったけれど、
「了解。智子さん」
と呼んでみた。
「じゃあまたね」
智子さんが自転車で帰るのを見送りに家から出ると、夏休みは終わるのにまだ暑かった。ただ、蝉の鳴き声がツクツクボウシのものに変わっていた。
「うん。またね、智子さん」
私の高校一年生の夏はこうして幕を閉じた。
了
サマースタディ 天音 花香 @hanaka-amane
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