告白
青瀬凛
第1話
「……君が、好きなんだ」
思わず零れてしまったらしい彼奴のその言葉は、あまりに儚くて、優しくて。告白というよりは懺悔に近い響きを持っていた。殆ど祈りに近かったかもしれない。
聞きたくないのに、聞いてしまった。
それは俺の親友と、俺の想い人との会話だった。放課後、橙色の陽の光が差し込む教室で。まるでドラマのワンシーンのようだった。所謂、アオハルって奴だ。
偶々。本当に偶々、教室前の廊下を通りかかった際に聞こえてしまった。好きな相手と親友の告白現場に居合わせるなんて、全く何処の映画だよ。
そして、うっかり親友の青春の一頁に足を踏み入れてしまった俺は、盗み聞きは良くないと思いながらも、足を動かせなくなってしまった。コンクリートで固められたかのようだ。
「嬉しい……!」
あの子が答えるのが聞こえた。目線だけ動かして彼女を見ると、目元に涙を浮かべていた。
……あの子とは俺も良い感じだと思っていたのにな。
なるべく声を掛け、困っていたら手を差し伸べ、笑い掛けていたのに。
畢竟、自分は良い奴止まりなのだ。本当は優しくなんかないし、狡いこともするような奴なのに。君だから、君だから、優しく振る舞っていたというのに。
二人に気付かれる前に、去らなければ。そうして何でもないフリをして、明日を迎えるんだ。
……幸せになれよ。
思ってもないことを、小さく小さく呟く。そして踵を返した。
まるで悲劇のヒーロー気取りだ。そうでもしていなければ、泣いてしまいそうだった。
廊下を戻り、階段を降り、そのまま下駄箱へ。トントンと床に打ち付けるようにして靴を履き、手提げ鞄を肩に掛けて、歩き出す。
記憶はいつだってオートセーブだ。嫌なことがあっても、セーブさえしなければ何も無かったことになって、時も戻って、やり直せる、なんてゲームみたいなことは起こらない。そして、このルートを辿ればこの結末になる、というお決まり事は、現実にはない。
これが恋愛シミュレーションゲームなら良かったのに。そんな馬鹿なことを思う。
本当は分かっていた。あの子が誰を見ているか、親友が誰を見ているか。それでも当たり障りのないように過ごしながら、さり気なくアピールしているつもりだった。
勝てる、なんて思いこんで。そう思っていた時点で、もう負けていたのに。
――負けたんだ。
そんなの嫌だ。もう終わりにしよう。好きだ。もういい。諦めたくない。諦めさせて。なんで。どうして。
頭の中がぐちゃぐちゃだった。意味の通らない言葉の羅列。
喉が痛い。鼻がツンとする。耐え切れなくて視線を落とした。
夕方の太陽の光がじりじりとコンクリートを灼いていく。真っ白に染まる視界の中で、その光だけが滲んで見えた。
――どうか、どうか、俺にも。俺にも明るい朝日が訪れますように。
告白 青瀬凛 @Rin_Aose
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