第2話 幼稚園卒園まで

私、本宮碧(もとみやあお)と白瀬游氷(しろせゆうい)は幼馴染だった。

生まれたときから一緒で、物心ついたときにはいつもお互いの側にいたらしい。

隣の家で育ち、家族ぐるみの関係を築いていて、当然のように2人で遊び、毎日追いかけっこやおままごとをしたり、毎年近所の海に遊びに行っては小さく切ってもらったスイカを食べたりしていたそうだ。

游氷は、気弱そうに見えて虫も大丈夫だった。なのでしょっちゅう虫を追い払ってもらっていたし、同い年の子供に比べて手先も器用だったのでどこか大人びていて、それでいてどこか掴みどころのない得体のしれない子供だった。

游氷は全体的に色素が薄く儚げな印象で、鎖骨ほどまで伸ばした髪は光を反射していて眩しかった。平均以上には確実に整っているだろう横顔がいつも華やかだった。

そしていつもそんな隣には、大体ほとんどが平均的な私がいた。

そんななか私達が生まれてから4年ほどが経過し、自然と幼稚園も同じところに入園する流れになった。


…入園式のあの時もそうだった。


もともと游氷は変わっていて、時々おかしな行動をする子供だったのだが…

数十年前のあの日、知らない場所に連れてこられ、私は怯えていた。

知らない子たちが沢山いる中で二人で手を繋いでいたのに、游氷はふらっとどこかに行ってしまった。

騒ぐ先生、ざわめく保護者達。

その慌てた様子よりもはるかに容易く、游氷は簡単に見つけられていたそうだ。

大人たちが彼女を探している中、游氷は幼稚園の裏側の、満開の桜の下にいた。

なんでも、小鳥の死体を埋めていたらしい。


真顔でたたずむ游氷と桜の木、花弁が舞い散る中で彼女はある種の、神話の一節を切り抜きとったような雰囲気を醸し出していた。

大人たち、親たちは「優しい子だ」だなんて言っていたけれど、どうせ違うだろう。

私はこの事件が、游氷がしでかした出来事トップ10に入ると思っている。


だって入園式の後に游氷は、さも特別な秘密を分かち合うかのように不敵な表情で、


「あの鳥、私が潰したの」


と私の耳に囁いてきたから。





その台詞とともに彼女に、雀の一枚の小さい尾羽を手渡された。

その羽根は押し花ならぬ「押し羽」にして、今でも家の書見台に飾っている。


――――――そういえば、あの時なんて返したっけ。


忘れてしまった。






彼女の両親は数年前に失踪、一人親である私の母親も認知症になってしまったため

結局、このことを覚えているのは私だけになった。

当時、私達や幼稚園の同級生は幼く、まだ物事を理解できる段階まで達していないため、游氷が同級生に気味悪がられることやからかわれることも、とやかくどうこう言われる事もなかった。


そこから2年経ち、私達は何事もなく幼稚園を卒業した。

今ではあの桜の樹は伐採されてなくなってしまったそうだ。



卒園式の後二人で、親と一緒に海に行った。

初春なので水はまだ冷たく、つま先がかじかんで赤くなっていった。


先生たちからもらった小さいガーベラの花束の花弁が、手書きの応援カードとともに落ちていき、水面下に沈んだ。




「ねぇ、しょうがっこうに入るときにまだ、桜って咲いてるとおもう?」

彼女が微笑んだ。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

拍手は滝の音 Fukumo @961604nekogasuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画