非日常への退避手段としてのホラー。


 ホラーは好き嫌いがはっきり分かれるジャンルである。

 何を好き好んで不幸になったり、緊張したりする経験をしに行くのか。

 コレに対する答えは人それぞれだが、作者様は「心の支え」として選んでいて――



 恐怖とは、動物が自分の身を守るために本能に刻んだ反応である。

 異常事態――非日常を避けるために用いられるのが本来であるが、毒も使い方によっては薬になるように、
 暗い日常をより暗い非日常で覆うことで、相対的に明るいと錯覚させるといった使い方もあるのだろう。

 たとえ一時の錯覚でも、嵐が通り過ぎるのを待つには大切なものなのだ。

 そしてホラーのもう一つの側面として、著者自身の闇を咀嚼し、外に吐き出すための媒体としての用いられ方がある。
 作中の恐怖要素は、それが化け物であれ、環境であれ、人の心理であれ、作者が感じた闇を投影しているということだ。

 だからこそ一部のホラー小説は、読者にトラウマと得難い経験を与えることがある。
 それは目隠しされたまま、著者の生身に直に触れたときの衝撃なのだろう。