吃音と私

細川ゆうり

誰にも見えない痛みを抱えて。

私は吃音を抱えて生きている。

物心ついた頃から、私は言葉がつっかえた。

ひとつ話すたび、喉の奥に南京錠に鍵を

かけられたような感覚に陥る。


「普通に話す」ということが、

私には少し難しかった。


迷惑をかけないように。

目立たないように。

つっかえるたびに「ごめんね」と口にして、

いつの間にか謝る癖がついた。


どうして自分だけ―― 毎日、自分を責めた。


高校の昼休み。お弁当を食べていたとき、

一軍の女子グループが私の喋り方を真似して

笑った。"変な奴"という視線が刺さる。

その瞬間、心の中で何かが静かに崩れ落ちた。


泣かないと決めていたのに、涙が溢れた。

情けなくて、悔しくて、怖くて。

気づけば私は教室を飛び出していた。


後になって、私はゆっくりと気づき始めた。


人は誰も、他人には見えない“つっかえ”を

抱えて生きているということを。


私のそれは吃音だったけれど、

誰かにとっては人間関係かもしれないし、

家庭の事情かもしれない。

あるいは、自分自身の心と戦っている

最中なのかもしれない。


理由は違っても、苦しさの本質は

きっと同じだと思う。

「自分だけがおかしい」と思ってしまうから、余計につらくなる。


だから私は、自分を隠すのをやめた。


私がつっかえるのは、弱いからじゃない。

必死に生きてきた証だと、今なら思える。


もし今、あなたが誰にも言えない

"痛み"を抱えているなら。


もし、うまくいかない

自分を責めてしまいそうになっているなら。

どうか、この言葉をそっと受け取ってほしい。


『あなたは価値のある人だ。

あなたの弱さは、あなたを否定する

理由にはならない。』


私はまだ、完璧に自分を好きにはなれない。

それでも、生きてきた過去のすべてが

「ダメだった」わけじゃないと、

少しずつ思えるようになった。


あなたにも、いつか同じ光が届きますように。


そして――


どうか、自分を嫌いにならないで。

その優しさも、弱さも、生きてきた証

そのものだから。

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吃音と私 細川ゆうり @hosokawa_yuuri

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