発泡スチロール

難儀な発泡スチロール

 「..暇だ」


 久しぶりの休日だというのに出てくる感想はこればっかり。昼に起きて飯を食ってベッドでゴロゴロと横になっているだけ。いつもの忙しさが恋しくなる。そんなとき、ある用事があることを思い出した。

 それはクローゼットの中にいる大きめの発泡スチロールの解体。かなり前から細かくするのが面倒くさいからと先送りしてきたが、明日のゴミの日のためには今日中に解体しなければならない。そう自分を奮い立たせて作業に取り掛かることにした。



 しかし、解体するにあたって二つ難点があった、一つは解体方法。厚さ的にハサミやカッターで切り分けるのは難しそうだ。園芸用のチェーンソーがあったが、細切れの先を行きそうなのでやめることにした。結局この部屋の中で一番お手軽にやれそうな包丁でやることにした。(匂いがつきそうで少し嫌だが..)

 もう一つの難点は個人的なものだが、発泡スチロールに触れた時の「きゅいっ」という音がこの世で一番嫌いなのだ。正直誰かに任せたい案件なのだが、手伝ってくれる人もいない環境なので、イヤホンをつけてスマホから好きなアーティストの曲を爆音で聞くことにした。これで完璧だろうとさっそく解体に取り掛かることにした。


 おっと、どこで解体する?となった時、せっかく包丁を持っているんだから台所でしようとするのは、自分だけじゃないと勝手に思っている。一人で暮らしていると自論で押し通せるこういう場面が楽だ。



 ターゲットを台所の上に乗せ、包丁を構えれば準備は完了だ。早速四つの塊ができるように十字に切っていく。粉が舞い散りくしゃみを一発かまし、分厚いその壁を破る時、曲が切り替わり発泡スチロールの音が聞こえて少しイラッとしたが、自分の中で一位二位を争うくらいのお気に入りの曲が流れたのでアンガーマネジメントをせずに済んだ。


 さてさて途中経過、小さいスーツケースくらいの大きさだった発泡スチロールは子供の頭くらいの大きさに四等分できた。さあもう一踏ん張り、と言いたいところだが自分はずる賢い人間でしてこの四頭分の状態で捨ててもいいんじゃないかと思ったのだ。

 ......まあ結局は解体を続行することにした。自分はまだルールとか法に怯えているのだろう。発泡スチロールのように守り切れない弱い存在なのだろう....ちょけてもウケないのが一人の辛さだ。

 四等分した一つを手に取り解体を進めていく。空洞に翻弄されつつ手のひらサイズに切っていき、三つ目に差し掛かった時、ある問題が生じた。

 それは、繋いでいたスマホのバッテリーが切れたのだ。これは非常事態、この解体が中断になるかもしれないくらいの非常事態だ。充電して使えるようになるまで待つ?それはダメだ。なぜなら解体の後の掃除に響く可能性がある。掃除は少し大きな音が出る関係上、遅い時間にやると近所迷惑になりゆくゆくは退去になるのかと妄想がうごめく。

 う~~~~ん..........と悩みに悩んだが結局スマホは充電している間、繋いでいたイヤホンを耳栓代わりにして無心で続けることにした。



 あまり記憶にも残したくないので割愛させてもらうが、ようやくゴミ袋二つくらいに抑えて解体を終了することができた。あぁこの達成感、腕と足と精神が疲弊する仕事が終わるのは格別の一言。そんな気持ちの中ご褒美のカップアイスでも食べようとした時、数分前の自分の発言に苦しめられた。


「....掃除するかぁ..」

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発泡スチロール @Agata_66

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