第24話 閉ざされた檻、届くは祈り

夜の帳が下りると、封鎖区域はさらに静寂を深める。

その中心――リアンは黒い結界の中に座り込んでいた。


どれほど眠ろうとしても、心が休まらない。

力が、内側から軋むように暴れようとする。


「英雄に……なりたかっただけなのに」


その呟きは、ひどく幼く、弱かった。

孤独が心を削り、自己否定が魂を蝕む。


利用する者たちは、リアンの力を道具としか見ない。

排除しようとする者たちは、災いと断じた。


両方から向けられる視線は――

どちらも冷たく、救いがなかった。


「俺は……何なんだよ……」


影が揺れる。

結界に反射し、怪物のようにも映る自分自身の姿。


恐怖が喉を塞ぐ。


英雄ではない。

怪物なのだと、自分の心が囁く。


◇ ◆ ◇


その結界の外、か細い声が届く。


「リアン……聞こえる?

大丈夫……絶対、大丈夫だから」


セリアだった。


封鎖を破れば、彼女も処罰を受ける。

それでも、結界ギリギリまで近づき、彼の名を呼ぶ。


彼がどれほど傷ついても――

その手を引く覚悟が彼女にはあった。


「あなたは私の知っているリアンのまま。

森に選ばれようが、力が変わろうが関係ない。

私はあなたを信じる」


声は震えていた。

けれど、揺らがなかった。


◇ ◆ ◇


リアンは気づく。

震える胸の奥に暖かいものが差し込んだ。


「……セリア?」


この閉ざされた世界で、唯一の救い。

唯一の味方。


彼女の声は、腐食しかけた魂を支える糸になる。


けれどその糸は細く、切れそうで――

だからこそ、必死に掴まなくてはならない。


「俺、まだ……終わってないよな」


答えは返らない。

しかし、彼女がそこにいるだけで十分だった。


リアンは拳を握った。

震えても、立てなくても。

必ず、前を見る。


英雄になりたい。

世界を救いたい。

そして――彼女を守りたい。


そう願った自分を、手放したくない。


「セリア……ありがとう」


囁きは結界に吸い込まれたが、

その想いは確かに彼女へと届いた。


◇ ◆ ◇


封鎖区域の闇はまだ晴れない。

ギルドは利用しようと企み、恐れた者は排除を望む。


だが――たった一人の信じる声がある限り。


リアンの魂は、まだ折れていない。


次は英雄か、怪物か。

その答えを導くのは――


セリアという灯火。

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2025年12月6日 17:00
2025年12月7日 17:00
2025年12月8日 17:00

憧れだけじゃ届かない――それでも俺は英雄を目指す 海鳴 雫 @uminari_sizuku

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