第11話

「二人とも大人しくしてた?ただいま!」


ハルピュイア2体を連れて帰ってきたニアの気配に気がついたドラゴンとペガサスが嬉しそうに厩舎から出てきた。迷うことなく駆け寄って抱きついたニアに甘えるようにペガサスとドラゴンも体を擦り寄せる。


「こちら、契約したハルピュイア。青髪の方がハーちゃんで金髪の方がピーちゃん。仲良くしてね!」


そう言った途端に2体はそっぽを向いた。機嫌を損ねたのかなと様子を伺いながら声をかけるも、一向にニアの方を向こうとしない。その様子にほとほとと困り果てていると、くすくすと笑う声がした。その声に振り向くと、そこにはマントを被った見覚えのある顔があった。


「相変わらず懐かれてるわね、ニアさん」


拗ねてもどこかに行ったりしないで引っ付いてるなんて愛されてるのね。そう言って笑った女性ことルナにニアは抱きついた。


「ルナさん!どうしてここに?水竜を封印に行ったんじゃ……?」


そう尋ねると、ルナはその件で王様に報告に来たのと笑う。


「3枚目にして、封印することに成功したの…これもニアさんがドラゴン達に協力するようお願いしてくれたおかげよ」


「その件でニアさんも呼ばれると思うから着替えてらっしゃい……と言いたい所だけど、その前に名前をつけてあげなくちゃ」


ハルピュイアたちに名前がついてるのに自分たちにつけて貰えないことにきっと拗ねてると思うの。ニアさんだって同じ立場になったら拗ねないかしら。そう尋ねられてニアは、ルナがニアと出会った後出会った子に、ニアにはしないちゃん呼びをする姿を想像した。


(それは確かにムッとするかも…)


そう納得したニアは、2体にも名前をつけようとした。けれども名付け経験の浅いニアはいい名前が思いつかない。ハルピュイア2体に対しても、2体いるから間違えないようにとモンスター名から名前を取っただけである。そのセンスも幼なじみがうさぎを飼った時にうさちゃんとつけていたのを真似したレベルである。

なんて呼べばいいのか迷いに迷った結果、下手におかしな名前をつけるより安直な名前をつけようと思い至った。


「……ドラゴンの、ゴンくんとペガサスのペガくん……はダメ?」


さすがに安直過ぎるかなと不安になっていると、2体は嬉しそうにニアの方に視線を戻して鳴いた。


その様子に受け入れて貰えたのだと安心していると、ローブに着替えたカルヴィンがニアに声をかけた。


「親睦を深めるのもいいが、王に呼ばれている。2時間後に謁見だから着替えてこい」


その言葉に、ニアは慌てて自室に駆け込んでシャワーを浴びた。そして謁見にふさわしい服を探すも、それらしい服をもちあわせていなかったニアはベットの上に持っている服を広げて頭を抱えた。


どうしよう……と困り果てた結果、いちばん綺麗なシャツとズボン、そしてカルヴィンから研究員の一員となったお祝いに貰ったローブを羽織った姿で登城することに決めた。



「ルナ殿、良くぞ水竜封印をしてくれた。望む報酬を用意させよう。次の活躍も期待しておるぞ」


「光栄に存じます」


国王陛下と王妃、そして側近の大臣たちとカルヴィンやニアを含む研究員が集まった謁見の間では水竜封印の報告とともにその褒賞が行われた。国王直々に労りの言葉を告げられたルナが下がると、今度はカルヴィンの名が呼ばれた。


「そなたを含めた王宮魔術師たちも良くぞここまで封印魔法の解明に尽力してくれた。これからもそなたらの叡智をこの国のために使ってくれ」


「……その件で発言をお許し頂けますか」


カルヴィンから発言の許可を求められると思っていなかった国王は一瞬目を瞬かせた。そして何も無かったように落ち着いた様子で発言を許可すると、カルヴィンはニアに立つように声をかけた。


「封印魔法の解明、復元には、このニアのドラゴンを調べられたことが大きいのですが……その件でお耳に入れたいことがございます」


「……申してみよ」


表情が固くなった大臣たちに向けて、カルヴィンはニアがドラゴンと出会った経緯と、ハルピュイアと対峙した時に使った魅了魔法について説明した。

ニアがほかの魔法を使っても命の危機に陥ってしまった時に仕方がなく使ったことを強調しつつも、その魔法を使えばS級モンスターとも契約できてしまう危険性を述べた。その話を聞いて国王たちの顔もだんだんと強ばっていく。そしてカルヴィンが神殿やギルドを通じて魅了魔法の危険性の周知の再徹底を希望した。


「……あいわかった。人間用の魔法だと思っていたがそのような効能もあったとはな……情報の提供感謝する。ギルドや神殿を通じて徹底しよう……さて、その場合そこに立っているニア殿はどういう処分にするべきか」


「…彼女は故意に魔法を使用しておりません。……が、ドラゴンの所有は危険に思われるのは確かです。……S級モンスターが確実に封印できるまでは研究に尽力してもらいたいと考えています。…ドラゴンは危険ですので再封印が妥当かと」


「っ?!」


ドラゴンと離れ離れになる。それはもとよりわかっていたことだった。ルナから説明を受けて、封印を前提に契約しているからいつかは……と覚悟はしていたものの、ドラゴンに情が生まれてしまったニアにとって、ドラゴンと引き離されるという事実に胸が締め付けられた。


「…確かに王宮に今いるドラゴンがいなければ水竜の封印も、それにより水路を復活させることも叶わなかった……となると、その功績と差し引きして考えざるを得ないか」


「……私からも発言をよろしいですか」


「ルナ殿、申してみよ」


「……私は報酬を望みません。ですのでニアさんの処分を軽くしてください……初めに会った時、契約をお願いしたのは私です。責任は私にもあります」


待ってとニアが発言するまもなく話は進んでいく。今回の水竜封印の件、そしてドラゴンが協力したことで救われた人々の多さと、魅了魔法の使用の危険性を天秤にかけた処分の決定は後日改めて連絡する。そう言ってニアたちは謁見の間から退室させられた。


「……大変なことに巻き込んでしまってごめんなさい」


「謝るな。ニアは悪いことをしていないだろう」


それよりも、ドラゴンのことは悪かったな。カルヴィンはニアに頭を下げた。


「……ううん、元々そういう約束で契約したんです……いつかは、そう思っていました。きっと私って許可なしで王都から出られないんですよね、いくつかお願いしたいことがあるんですが」


「なんでも言ってくれ。叶えられるものは叶えよう」


そう言ったカルヴィンと、強く頷いたルナを見て、ニアは安心したように笑った。

ドラゴンを封印する時に立ち会いたいこと、ペガサスやハルピュイアたちとこれからも暮らしたいこと、村に戻らず神殿に務めるという祖母を王都配属にして欲しいこと、ルナたちと話すための通信機を作って欲しいこと。


欲張りすぎるかな、と思いつつも後悔しないためにわがままを言うと、カルヴィンは通信機ならすぐにでも用意しようと笑った。


「ミーディさんに頼んでお祖母様を王都配属にしてもらおっか、きっとユリナさんもアルトバーン公爵様も動いてくれるから大丈夫」


その言葉の通り、ルナはニアの祖母の異動のために動いてニアは祖母といつでも会える距離で暮らせるようになった。

カルヴィンから王家に進言し、ハルピュイア2体とペガサスは王宮魔術師の厩舎で暮らせるようになった。




水竜封印の後、改めてドラゴンの魔力抵抗を調べ直した王宮魔術師達は、実験を繰り返しドラゴンをも1回で封印できる封印魔法の紋様紙を完成させた。


完成の証明として、ニアのドラゴンの封印が決定した。その封印の性能を確認しようと王族貴族が集まる中らドラゴンはニアの村から数十キロの距離にある泉のそばの祠に封印されることとなった。


「……今から言うことをよく覚えていて。ゴンくんは今からここで長い眠りにつくんだって。だからきっと目が覚めた時にはもう私はいないわ。寂しくなるけど私はゴンくんのことを忘れないから、あなたも私を忘れないでね。……色々あったけれどゴンくんと過ごせた毎日はとっても楽しかったよ。ありがとう」


最後に一言別れを告げてこいと言われたニアは、ぎゅっとドラゴンに抱きついた。大好きだよ。元気でね。ポロポロと涙を流しながらそう言ったニアの涙を拭うようにドラゴンはニアの顔を舐めた。


そっとルナに抱きしめられながら、封印魔法の発動を見守っていると、ドラゴンは小さな宝玉の中に吸い込まれていった。今生の別れに再び涙が零れたニアを、カルヴィンも心配そうに伺った。


「…ありがとうございます。もう大丈夫です。これからもペガサスとハルピュイアたちもそばにいてくれますから」


そう言って笑うと、ニアは強いなとカルヴィンは安心したように笑った。



とある村に、1人の少女が住んでいました。ドラゴンに殺されそうになったその少女は、魅了魔法でその未来を変えました。


これは、そんな少女の出会いの物語。

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S級冒険者ルナはひもじい 洦葉-hakuha- @hakuha20606

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