舞踏会は突然に

ぽか

夜8時

ぼーん、ぼーん、ぼーん。

籠った低音が空気を伝い、耳に滑り込む。

やっと1時間経ったのかとワイングラスを軽く回せば、中の液体は赤い満月を描いた。

殺風景なテーブルからちらりと横に目をやると、そこにはもちろん、踊るあいつがいる。


ピンクのフリルがごてごてたっぷりとこびり付いたドレス。レースがグルグル絡みついた靴。上には大きなリボンがぐしゃぐしゃに結ばれて。

いかにもな少女趣味だが、少なくともあいつには

少女らしい可愛さも、なんでも着こなすような美しさもなかった。良くてゴミだ。

今にも破裂して弾けそうな肌なんて特に見ていられない。

どれだけ着飾ろうと、俺には精々ゴミが四角く整えられたようにしか感じられない。クソ。


腹が立って視線を外す。

だが、もう遅かった。

視線に気づいていたのだろう。ゴミはゴツゴツとヒールを鳴らしながら俺へと近づいてくる。

鼻に刺激臭が届く。思わず軽く嗚咽した。

そんなこちらもお構い無しに、およそ5センチもないような距離まで近付くと、たるんだ皮膚を震わせながら口を開く。


「みぅ、だまばばば、ぶぶ、むんぷ、ふー。」

「ごぎぎぎ、ばーーー!!ご、ご」

「ずずずぐちゃむぶぶぶあっあーあー」


3つの口がばくばくと動く。

どうやら文句のようだ。


「なんだよ、やめてくれよ。クソ、帰してくれ。 いつまで居させる気なんだよ。」


最初は軽い気持ちだった。

誰もいない、放置された寺。ちょっとくらい金が手に入れば儲けもんだと思った。


「ぶあ゛、ぎーーーーーー、ぐぐぐちゅ」


古びたよく分かんねえ紙のついた襖。

ただのゴミだと思ってたのに。


「ぎ、ぎ、ぎ、ぎ、」


剥がして開けたら肉が居た。腸にありったけ細切れを詰めたみたいな、ぱつぱつでぐちょぐちょの。


「ぱき、ぱき、ぱき、」


意味わかんねえ位置に口がついてるし、3つあるし、小石みたいな歯が詰まっててさ。


そもそも、部屋だっておかしかった。

ここ寺だろ?なんで床がタイルなんだよ。

こんな低い天井なのにシャンデリアだし、そもそも誰がロウソクに火をつけたんだよ。なあ。

誰が、外の梵鐘を鳴らしたんだよ。


化け物はテーブルのナイフとフォークを、手とも言えない肉でずるりと絡め取ると、カチカチと歯を鳴らした。


上のやつらにも、憧れというものはあるらしい。



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舞踏会は突然に ぽか @atatakami__

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