俺と弟がラブコメしないと誰が言った?

犬好杉夫

第1話 陰キャが青春しないなんて誰が決めた

正直、俺の人生に恋愛なんて起こることないものだと思っていた


俺、柳川康介はどこにでもいる根暗で陰キャな大学1年だ。友人は片手で数える程度しかおらず、もちろん恋愛なんて生まれてこのかた経験はない


そんな俺にもついに今日、女の子と話す機会が訪れた


「なあ康介、今日暇か?」


俺に話しかけてきたのは同じ学部で友人の天海翔。髪は派手な金に染めていて、俺とは正反対な性格のイケメンだ


「な、なんだよ翔。別に暇だけどさ」


「だと思った。今日合コンあんだけど、お前来るか?無理にとは言わ...」


「い、行く!」


「お、おう、お前が食い気味なんて珍しいな。」


もちろんだとも、俺はなんせ今の今まで女性と話したことなどほっっっとんどない。それ故に出会いも何もあるはずはなく、灰色の人生を送ってきた。


(しかし、それも今日までだ)


集合場所を翔から聞き、1度家に戻った俺はホコリを被っていた外行き用のオシャレな服に腕を通した。

高校の頃に買ったとはいえ、多少大きくなった今でも入るものだなと感じていると背後から部屋のドアが開く音がする


「うわ、康介じゃん。帰ってたんだ」


「う、うわはないだろ雪...」


軽蔑するような、蔑むような目でこっちを見てくるこいつは柳川雪、俺と血が繋がっているとは思えないほどの美少年だ。

...性格は終わっているが


「てか、それなんだよ。オシャレのつもりか?死ぬほど似合ってねんだけど」


「わ、笑うなよ、別にいいだろ俺が何着ようと...」


「ふーん、あっそ。まあお前のセンスに興味無いし別にいいや。それで?どっか行くわけ?」


「...合コン」


そういうと、雪は一瞬驚いたように目を見開いて、だが次の瞬間には堰を切ったように笑いだした


「は、はぁ!?お、お前が合コンって...ぷっ!あっははははは!」


涙を浮かべ、腹を抱えて笑う雪に対し怒りがこみ上げ、俺はつい言い返してしまった


「う、うるさい!わかった、き、今日絶対お、女の子と連絡先こ、交換してきてやるんだからな!」


「あぁ腹いてえ。ん?連絡先?ま、頑張ってみれば?やれるんならだけど」


「で、出来らあ!」


そこからは、家を逃げ出すように飛び出していった。


(い、今に見てろ雪のやつ!俺だってやればできるってこと、証明してやる!)


___________________________

「だ、ダメだった...」


「だから言ったろ?無理すんなって。お前にゃやっぱまだ早かったんだよ」


案の定、俺の立ち回りはことごとく空回りし、途中から女の子たちは誰も俺の方を向いていなかった。もちろん、服なんて誰も気にも止めておらず...


「ま、安心しろ、お前に一生女ができなくたって、俺がずっとダチでいてやるからさ」


「彼女が欲しいんだよ、俺は...」


「...俺じゃだめなのかよ」


「ん?翔、なんか言った?」


「い、いや、なんも...ほら、もう家着くぞ」


「うん、ありがと。じゃあまた明日」


そう言って、俺は翔と別れた

家に着き、寝ているだろう両親を起こさぬようにとなるべく音を立てず自室へと向かう


時間は12時をまわり、家中のあかりは既に消えていた。雪の部屋を除いて


(雪、起きてたのか。結局、あいつの言う通り合コンなんて無理だっのかもな。連絡先もダメだったし)


家を出る前、あれだけ啖呵を切っていたというのに駄目だった。隠し通していた方がバレた時ボロクソに言われるのは目に見えていると、俺は雪の部屋に合コンの報告へと向かった


「た、ただいま雪。やっぱりお前の言う通り無理だった...よ...」


「...は?」


そこにいたのは、いわゆるゴシックロリータと言われるような衣装に身を包んだ雪が、驚愕の顔で佇んでいた


お互いに時間が止まったような感覚に襲われ、実際止まっているのではないかと思うほど静かだった


「え、えっと、おや...すみ」


「...」


空気に耐えられず喋って見たものの、雪は何も言わず、ただ顔を青ざめたまま立ちすくんでいる。

俺もそれ以上何も言えず、後ずさりしながら自室へと向かった


そこからはもう何も考えられず、あの瞬間が脳内で浮かび続け、眠ることなどできるはずがなかった

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俺と弟がラブコメしないと誰が言った? 犬好杉夫 @maruti-zu

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