頼れる兄貴分、サイジャ君
藤泉都理
頼れる兄貴分、サイジャ君
「おう、転校生のサイゼ君。面をかしな」
「………はい」
小学校五年三組に転校してきたばかりの坊ちゃんヘアで小柄の少年、サイゼ君はとうとうこの日が来たかと唾を呑み込んだ。
転校生の宿命、呼び出し。
小学校を牛耳る四天王の中でも最強にしか見えない、いや、そもそも、小学生ではなく高校生にしか見えない筋肉隆々の身体、前髪で片目を隠していながらも凶悪な面から凄みが減る事はないばかりか増して行くにもかかわらず、四天王の中でも最弱という摩訶不思議な少年、サイジャ君。
(サイジャ君が最弱なんて。他の三人はどんなポテンシャルを秘めているんだ?)
サイゼ君はサイジャ君の斜め前を歩く四天王の三人を注視した。
四天王の中で三番目に強いサイジュ君は、前髪で片目を隠し、鼻片眼鏡をかける凛々しい顔立ちでスラリとした体形の少女。
四天王の中で二番目に強いサイジョ君は、前髪で片目を隠し、マイナスイオンを放出しているような清涼感のある微笑みと身だしなみの中肉中背の少年。
四天王の中で一番目に強いサイズ君は、波打つ前髪で片目を隠し、眉尻を下げて、おどおどしている可愛らしい小柄の少女。
みんなサイゼ君と同じ五年生である。
(やっぱり、サイジャ君は武術戦に長けていて、サイジュ君は情報戦に長けていて、サイジョ君は人の心を掴む事に長けていて、サイズ君は。何だろう。んん。庇護欲を搔き立てて思いのままに人を操る事ができる、のかな。何だろう。みんながみんなすごい人に見えて、順位をつけられないような気がするんだけど。でも、明確な順位がつけられている。んん。そもそもボクはどこに連れて行かれるんだろう?)
心配するサイゼ君を連れて、サイジャ君、サイジョ君、サイジュ君、サイズ君は、上履きから靴に履き替えて校舎を出て歩き進め、校庭の真ん中で雅に染め上がる立派ないろは紅葉の下で立ち止まった。
サイジャ君は振り返ると真正面に立ちサイゼ君に挑戦してみろと言った。
「挑戦?」
「そうだ。舞い散るいろは紅葉の葉掴み取りに挑戦してみろ」
「え? あ。え? その。挑戦して、一枚も取れなかったら。学校から追い出される。とか。学校中みんなの舎弟にならなくちゃいけないとか。ですか?」
「ああん?」
「っひ」
「何だそのクソ思考は。一枚も取れなかったって。誰もオマエをハブらねえ。これはただこの学校のみんなが行う儀式。安心しろ。オレたち四天王以外、一枚も取れていない」
「え? 一枚も?」
「そうだ。一枚も取れていない。だから胸を張って挑戦しろ」
「………はい」
こんなにゆっくりと落下しているのに、ここに居る四天王以外誰も一枚も取れていないなんて信じられなかったサイゼ君だったが、もしかしたら特別ないろは紅葉なのかもしれないと考え直しながら、いろは紅葉へ向かい合った。
すごく大きくて美しいいろは紅葉にうっとりして、両頬に両手を強く押し当てたサイゼ君。サイジャ君に準備はいいかと訊かれて、はいと答えた。
瞬間、突風がサイゼ君の後ろから襲いかかり、踏ん張る事ができず吹き飛ばされてしまったサイゼ君をサイジャ君が力強く受け止めてくれた。
「やはり一枚も取れなかったな」
「あの。あの突風はもしかして」
「ああ。オレの打撃が生み出したものだ。あの突風に耐えつつ、いろは紅葉の葉を掴み取るのだ。安心しろ。あのいろは紅葉は俺の打撃で産み出された突風などへでもない」
「………なるほど。はい」
「よくやった。これでオマエもオレたち学校の一員だ」
「えへ。やった………あの。ちなみにサイジャ君は、いろは紅葉を何枚掴んだのかな?」
「一枚だ」
「え? 一枚?」
「そうだ。不甲斐ない事に、オレはいろは紅葉の葉を粉々に握り潰さず掴む事ができるのは、一枚だけ。サイジュ君は十枚。サイジョ君は二十枚。そして。四天王最強の名を手に掴んでいるサイズ君は百枚だ」
「ひゃ。百枚!?」
サイゼ君はサイジャ君に抱えられたままサイズ君を見下ろした。
「サイズ君はオレが生み出した突風に乗って華麗に舞いながら、いろは紅葉の葉を傷一つつける事なく百枚もの葉を掴み取る事ができたんだ。まさに四天王最強に相応しい方だ」
「な。なるほど」
「これからよろしく頼む。サイゼ君」
「よろしくね。サイゼ君」
「よろしく、お願いします。サイゼ君」
「改めてよろしく頼む。サイゼ君。困り事があったらオレたち四天王を頼ってくれ」
「は。はい」
サイジュ君、サイジョ君、サイズ君、そして、地面に優しく下ろしてくれたサイジャ君の嬉しい言葉に涙ぐんだサイゼ君は、よろしくお願いしますと大きな声で言ったのであった。
「ボク、この学校に転校できてよかったよ」
(2025.11.12)
頼れる兄貴分、サイジャ君 藤泉都理 @fujitori
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