第3話 冒険者ギルドへ ― リリィ、冒険者になる

ギルドの扉を押し開いた瞬間、世界が変わった。

 広い木造のホールには、鎧の音、笑い声、武具の金属音、魔力の微かな揺らぎ――冒険者たちの活気が渦巻いている。


(す、すごい……ここが冒険者ギルド……!)


 胸の奥が熱くなる。

 昨日まで孤児院で、粗末なパンを分け合っていた自分が、今こうして冒険の入口に立っている。


 受付カウンターへ歩み寄ると、大人の女性が柔らかく微笑んだ。


「いらっしゃい。冒険者登録ですか?」


「は、はい! お願いします!」


 緊張で声が裏返り、リリィは慌てて姿勢を正す。

 受付の女性は羊皮紙とペンを差し出した。


「ではまず、お名前と年齢、それから得意な分野を書いてください」


 リリィは“リリィ 13歳”と書き、少し迷ってから能力欄に控えめに記した。


“魔法(入門)”


(……本当はもっとできるんだけど)


 胸元の魔導書――ネクスから優しい声が届く。


《控えめすぎるな。お前は3年間、誰にも負けないほど努力した》


(わ、分かってるけど……!)


 照れくさい。それでも、言葉は胸の奥に力を与えてくれた。


 受付の女性は続けて説明を始める。


■ギルドの冒険者ランク


「冒険者には、下から G・F・E・D・C・B・A・S のランクがあります」


 リリィは食い入るように聞き込んだ。


「新人さんは必ず Gランク からです。

 依頼をこなして評価を上げていけば、ランクが上がっていきます。

 Eランクで一人前、Cランクで地方の有力冒険者、

 B以上になると国に名が届き、AやSになると英雄ですね」


(英雄……すごい世界)


 その瞬間、ネクスの声が静かに響いた。


《妄想だけで終わる話ではない。

 お前の魔法は、この年齢で既にE……いや、Dに匹敵している》


(えええ!?)


 思わず変な声が出そうになり、リリィは慌てて口元を押さえた。


《安心しろ。まだ誰にもバレていない。

 お前が強くなった理由は、努力と継続だ》


(……う、嬉しいけど、なんか緊張する)


■冒険者登録


「――ではこちら、冒険者証になります」


 女性受付から、小さな金属製のカードが手渡される。

 それには


 リリィ Gランク冒険者


と印字されていた。


「登録は完了です。これからよろしくお願いしますね」


「ありがとうございます!」


 胸の奥がじんわり熱くなる。

 孤児院を出たばかりの少女が、今――冒険者になった。


《……言っただろう。ここから始まると》


(うん……ネクス、私、頑張る!)


 ギルドのざわめきが、いつもより明るく聞こえた。

 依頼掲示板には無数のクエストが並び、自分の未来がそこに続いている。


(ここが私の――新しい生活なんだ)


 リリィは冒険者証を握りしめ、ひとつ深呼吸をした。

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転生したら魔導書でした。―ページをめくるたび、少女は強くなる― @Teru5555

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