閑話「母は強し」
「あれ、母さん達こっちくるの?」
「らしいよ。今度、こっちに遊びに来る予定だとか」
「今度?今度っていつ?」
「さあ。詳細な連絡は来てないから、まだ決まってないんじゃないかな?」
「なんていうか……母さんらしいな。じゃ、また日程決まったら──」
「まあ。随分と愛らしくなりましたね」
「日程決まったら教えて」、そう言いかけたところで唐突に挟まれる、上品で
、自信、あるいは身勝手さに溢れた、良く聞き慣れた声。
まさかと思って顔を上げると、そこにはそのまさか。
俺の母親、白山アカリがそこに立っていた。
「久し振りですね。カイトさん、セイ。部屋は散らかしていないようで、ひとまず安心しました」
「あ、アタシもいるよ、兄さん。ほんとに美少女になっちゃったんだ笑」
ツッコむ間もなく部屋に上り、ツッコむ間もなく俺の頬に手を触れる母さん。
ついでに姿を現した1つ下の妹、アオも素早く後ろに回り込み、2人がかりで俺の身体を調べ始める。
そして父さんが恥ずかしそうに目を逸らす中、数分の間為すすべもなく蹂躙される俺の身体。
彼女達が満足した頃に残されたのは、少し息の荒くなった俺と、目の前の事実を再確認して楽しげにする母さん達だった。
「いやー、ほんとに美少女笑てか兄さんが最近のソシャゲみたいな身体してんのマジで笑」
「カイトさん。この子の服はカイトさんが?」
「いいや、セイ自身だよ。最近はお友達と買いに行ったりもしてるみたいだ」
「そうですか。ええ。それは何よりです。それと。突然尋ねてしまい申し訳ありません。2人の驚く顔を見たかったんです」
「父さん聞いてよ、マジで母さんヤバかったの。アタシさ、昨日帰ったの22時だったんだけど母さんアタシが帰ってきた瞬間に「東京に行きませんか?」なんて言い出して笑」
「そっから速攻で関空笑」とケラケラ笑うアオ。
まあ母さんならそういうことをするだろうという変な信頼はある。
ある意味で俺の母親、白山アカリという人間は黑谷ちゃんに似ている。
いや、黑谷ちゃんが母さんの同類というべきか。
それがどういうことか?
要は清楚系の皮を被りながら、その下では幾つかネジを外したような種族ということだ。
外見だけは大和撫子な母さんは、最強つよつようるとらすーぱー美少女となった今の俺にもその面影は少なからず引き継がれているくらいに、間違いなく美人の類に入るだろう。
でもその中身は他人の予想を裏切り、ありふれた未来をひっくり返し、感情という感情を掻き乱すことを何よりの生き甲斐とする天性の
この悪癖が俺やアオに継がれなかったことに心底安堵する程度には困った人間性の持ち主なのである。
「セイ。もしかして私の悪口を考えていましたか?」
「別に」
「そうですか?私にはハロウィンで少々本気を出しすぎてあなたをギャン泣きさせた時のことを思い出しているように見えたのですが」
「それじゃないけど……覚えてんなら二度とやんないで。音が出るチェーンソーマジで怖かったから」
「ええ。覚えていたら」
「それもっかいやるやつだろ……」
何を言おうとも「どうでしょうか」と柔らかい微笑みとともにのらりくらり躱す母さん。
自分の主導権を自分で握る、この点においては彼女は何よりも天才的だ。
そんなことを考えていると、母さんは持参した幾つもの紙袋を手土産と言わんばかりに俺に渡してくる。
中身を見ると、そこには大量に詰め込まれたコーデの数々が。
俺が顔を上げると、彼女はクスッと笑った。
「これくらいは良いでしょう?可愛い子供がますます可愛くなったのですから。母としてこれくらいは」
それから母さんはついでと言わんばかりに冷蔵庫に作り置きを詰め込むと、アオに「帰りますよ」と声を掛ける。
「はいはーい」と軽い返事と共にアオもそれについていった。
「あれ、もう良いのかい?アカリ。こっちまで来たんだったら夕飯くらい……」
「お忘れですか?カイトさん。明日は月曜日ですよ」
「あ、そうだったね。だったら、今度は僕達がそっちに遊びに行こう」
「ええ。お待ちしています」
そして別れを告げ、部屋を出ていく2人。
俺も父さんとそれを見送った。
「楽しみだね、母さん。夜ディズニー」
「ええ。明日は振替休日ですから。有効活用しなければ」
「……なあ、セイ。1つ僕から提案があるんだが」
「奇遇。俺からも」
そして、俺達は彼女達の後を追いかけて急遽ディズニーに向かった。
「ふふっ。相も変らず良い反応ですね。2人とも」
TSして承認欲求爆発しちゃった俺がガチ全能系クラスメイトに愛されて幸せになっちゃうまで あるふぁせんとーり @AlphaSentauri
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