儚い初恋

ぼくは、夏空の下で人生初めての恋をした。

かわいらしい大きな目が好きだ。いつも花のまわりでひらひらと舞っているところが好きだ。いじらしく指を握ってくるところが好きだ。気まぐれにふらっとどこかに行ってしまうところが好きだ。花畑がよく似合うあの子が大好きだ。


次はいつ会えるかな。あの子に出会ってからドキドキしながら家を出るようになった。ぼくが毎日花畑に通ってもあの子はたくさんの花畑を行ったり来たりでいつもの花畑にいないこともよくあったから。でも、そんな気まぐれなところもかわいいんだ。それに、約束しなくても3日に一回くらいは会えていたから、ぼくの「好き」はどんどん増えていくばっかりだった。


あの子はなにが好きかな。あの子のことを毎日考えるようになって、ぼくの頭の中はいつもぐるぐるするようになった。ママに相談してあの子が好きそうなものをいっぱい持っていってみたけど、あの子はそっぽを向いて花の方に戻っていってしまった。ぼくが出会ったいままでの子とはぜんぜん違う、特別なあの子がすごくキラキラと輝いて見えた。


ぼくとあの子の間に特別な会話はないけど、そんな口下手なところも好きだから。頭がクラクラしちゃう暑さの中でぼくは、暑さなんかに負けないで花の周りをくるくるしてる元気なあの子を木陰から眺めているだけで幸せだった。


でもあの子は、あんなに元気に飛び回っていたのに、夏の影と共に去ってしまった。あの子が遺したのは楽しくて幸せな、長くて短い夏の思い出だけ。


目の前には、もうあの子のものじゃない、ただの黄色い網目模様の羽が散らばっている。

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短編集 みらい @Mii_31

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