第6話 静かな怒り

 学長は、他の来客を出迎えなければいけないとのことで僕は師匠とツクヨ姫の案内を任されていた。


「…学校生活はどうだヒナタ?」


「師匠のおかげで楽しく過ごしてますよ」


「好きな子はできたか?」


「いないですよ…」


「なんだつまらんでしだな…ルームメイトの皇女がいるだろう」


「いや、手を出した時点で公開処刑になりますから…まぁ、ある程度仲良くやれているとは思いますが…」


「それは良かったな…」


 師匠は、僕の頭を撫でながら嬉しそうに笑っていた…


「……僕はもう子供じゃないですよ」


「何…親にとっては子供は何時までも子供のままだ」


 ヒナタは、恥ずかしさと嬉しさで顔を真っ赤にさせていると後ろからツクヨ姫が話しかけてきた。


「おい、久しぶりの再会に喜ぶのはわかるが我をほっぽり出すでないわ…」


「申し訳ありません。ツクヨ姫」


「まぁ良い…」


「なんだ、姫様…うちの弟子に惚れたか?」


「そんなわけなかろう…身分を考えよ身分を…」


「ツクヨ姫は何故、魔導競技際に来たのですか?」


「そうじゃな…元々今回の競技際にはゲン爺から剣術を教わっておる。我の兄上が来る予定だったのだがな、時期天帝としてやる事が山積みだとのことで我が代わりに来たということよ」


「なるほど…」


「それでそなたははどの競技に出場するんじゃ?」


「明日から行われる学年対抗戦に出るつもりですが…それが何か?」


「ほう…まさか魔導大祭に出場するつもりか?」


「そうですけど…」


「姫様…俺の弟子はそう簡単にやられませんぜ…」


「まぁ、ゲン爺の弟子だからのう…実力は疑っておらん」


「しかし…弟子よ、お前さん裂断魔法を使用する気か?」


「いいえ…流石にあの魔法は殺傷能力が高すぎるので使うべきだと思った場面でしか使用しないつもりです」


「…ってことは、まさか錬成魔法しか使わないつもりか…?」


「今のところはそうなりますね…」


「ん?話が全然見えてこぬのだが…よもやそなた…固有魔法を二つ所持しているとは言うまいな…?」


「………そのまさかです」


「…そんな事がありえるのか…」


 ツクヨは、珍しい生き物を見るような目でヒナタをみた…


「姫様のその反応もわかるぞ、実際俺が知った時も驚いたもんだ…」


「まぁ、他の魔法は使えませんけどね…」


「なるほどなぁ…近接特化の魔法師ということか…流石に競技際上位に入るのは無理ではないか?」


「普通に考えればそうでしょうけど…」


僕は、彼女に向かって笑顔でこう答えた…


「明日、僕を見ていてください…」


「………」


「どうしました?」


「何でもない…それよりも早う行くぞ!」


「ちょっと…!」


 ツクヨ姫は、そそくさと早走りで先に歩いていった…


「…弟子よ…あの返答はないぞ…」


「そうですか?」


「まぁいい…姫様を追いかけるぞ」


「わかりました」


 僕はその後、師匠と共にツクヨ姫を追いかけそのまま学園の宿泊施設へと無事に案内を終えた…


「さて、部屋に戻ろうかな…」


 ヒナタが寮に向かう途中、寮の玄関前で二人の女性が待ち構えていた。


「待っていましたよ…ヒナタ・アカツキ…」


「たしか…アリスさんとマリーさんでしたよね…ここで何をしているんですか?」


「あなたに会いに来たのですよ…」


(…なんだこの怖いくらい空気は…)


「王朝の姫君に付き添われていたご老人が学園長の夫であることはわかりました…しかし、学園長…いいえ…ケイシー様は私達だけでなく皆が憧れる偉大な魔法使いです。若き日の彼女の武勇が子供達に語り継がれるほどに…」


(学長って教科書に名前が載っているのは見たけど…そんなに有名だったんだ…)


「ケイシー様は25歳の時に誰にも告げずにその姿を消しました」


「それで…言いたいことはなんでしょうか?」


「ケイシー様が行方をくらましていた三十年もの間…誰もが彼女を探しました…それがどこの馬の骨ともわからない男性と結婚し、養子を迎え入れていたなど…」


「………」


「養子であるあなたに提案があるのです」


「なんでしょうか…?」


「あなたの要求を何でも一つ叶える代わりにあのご老人と共にケイシーから離れていただけないでしょうか…」


「……その前に、御二人のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「そういえば名乗っていませんでしたね…進学科2年のアリス・ルノワールです」


「学園の生徒会長を任されております。高等部2年のマリー・ルノワールですわ…」


「アリス先輩とマリーさんですね…覚えておきます」


「それでどうなさいますか?お姉様の提案は、アカツキさんにとってもとてもいい話だと思うのですが…わたくし達は、ラトリア王家の分家であるルノワール公爵家の娘…その気になればあなたに貴族の位を授ける事も可能ですわよ」


「あなたが平民の身分だという話は聞き及んでおります。王国に迎えるだけでなく、貴族の位も手に入る。妹がおっしゃる通り、あなたにとって悪い提案ではないと思いますよ」


 アリスとマリーは、笑顔でヒナタにその提案を持ちかけた。まるで自分達の考えが微塵も悪くないと言わんばかりに…


「学長が…(ボソッ)」


「今なんと…?」


「学長が不憫だとそう言ったんですよ…」


「っ…!」


「平民如きが…無礼ですわよ」


 二人が怒りで顔を歪める中、僕は彼女達の間違えを正すことにした。


「間違えが二つあります…まず一つ目は、学長と師匠との間には血のつながった実の息子がいるということ…」


「「…!」」


「そして、二つ目…僕は平民ではありませんよ」


「それでは、あなたはヤマト王朝の貴族だということでしょうか…?」


「いいえ…僕は貧民街の人間、王朝の賤民ですよ」


「なっ…ありえません…!」


「平民でもなければ、よりにもよって賤民を養子にするなど…正気の沙汰ではありませんわ…」


「あなた方…貴族からしたらそうなのでしょうね」


「当然です。何故、賤民がこの学園に通っているのですか…!穢らわしい…」


「僕のことをどう言おうが構いません…しかし、アリス先輩…あなたは本当に学長の愛弟子ですか?」


「…今の言葉…ケイシー様の養子であろうと許しませんよ」


「すみませんが、今の発言を撤回する気はありません」


「この…お姉様!この賤民を今すぐ殺すべきですわ…!」


「では聞きますが、何故あなた達は尊敬する学長を悲しませるような発言を平然と口にするのですか…?」


「悲しませる…?」


「自分の師が幸せであることを何故喜べないのかとそう思ったまでです」


「幸せであるわけがないでしょう…!」


「それを決めるのはあなた方ではなく学長本人だ…!」


「っ…!」


「恩義を忘れて、自分の気持ちばかりを優先する今のあなた達の姿を、一人の人間として…深く軽蔑します」


「……ヒナタ・アカツキ…あなたは明日の対抗戦には参加するのですか…」


「はい、そのつもりです」


「そうですか…明日の競技際、無事でいられるとは思わないことです…」


 そう言ってアリス先輩は、寮の中へと入っていった…


「お、お待ちくださいお姉様…!」


 マリーさんは、アリス先輩を追いかけるように走り去っていった…


「さて…どうしようかな…」


 ヒナタは、静かな怒りを隠すように明日の競技際に向けて自分がどう動くべきか考えながら部屋へと戻るのであった…


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〜剣と魔法の世界で彼は何を目指すのか〜 @534

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