現実
悪い夢を見ていた
ただ、もう思い出せない
硝煙の匂いと誰かが泥を踏む足音で目を覚ました。
銃を手に取り、今日も塹壕の中を歩く
誰かは神に祈り、誰かは妻に手紙を描き、誰かは恩師に感謝をしている
運が悪ければ自分が死ぬ、運が良ければ相手が死ぬ
初めて人を殺したときの気持ちなんてとっくに忘れた。
ただ、毎日死にたくないという気持ちだけで生きている
見張りの任務につき望遠鏡を覗く。
「やぁまた会ったね、今日も一人?」
小さいころ見たリッキーがまた現れていた。
「リッキーかどうした、久しぶりだな」
「そうだね、どう?まだ神様って奴を信じているのかい?」
神か、小さいころは信じていた、救ってくれると。
ただどうだ?故郷はなくなり、父と母も死に友人も死んだ、写真も思い出も何も残っていない。
13歳の時母と父と住んでいた家が空襲で破壊され燃えているときに気が付いた。
あぁ神なんていないんだ。
自分の運命は自分でしか選択できない、人を殺すも生かすも己次第
だから選択したどんな手を使ってでも従軍した。
死にたくないから。
「神は居ない、ただそれは作り出せる、誰だってただ祈っているだけじゃ現状は変えられない、神はサイコロなんか振っていないし誰も愛してなんかいない、ただ居ただけだ。」
「そう、それが君の答えなんだね」
「答え?嫌、違うな多分この問いに正解はないし結論を急ぐ必然性もない、ただ問題としてそこにあるだけでいい」
「ふ~んなんかつまんなくなっちゃったね」
「大人になったってことだな」
「そっか君も、もう17歳だもんね」
「そういえばリッキー・・・・」
隣を見るとすでにリッキーは消えていた。
君は神様なのかい?それとも僕は精神異常者のイエスなのか?と聞きたかったがもう遅いか。
遠くから笛の合図が聞こえた
焦る心臓とは裏腹に震える手で双眼鏡を掴み相手の塹壕を見ると突撃を開始していた。
気づくと腹部に赤い血がこびり付いていた、思わず膝をついてから鈍い痛みが駆け巡る。
生まれる時代が少し違ったら天才絵描きとして名を馳せてたのかもしれない
生まれる時代が少し違ったら高校で授業終わりに母と父が待つ家に帰っていたのかもしれない
生まれる時代が少し違ったら神と呼ばれていたのかもしれない
僕が最初から神を信じていなかったら
いやそもそもリッキー、あいつはなんだ
神か悪魔か俺自身か
眩しいくらいに光る太陽を見てみると見慣れた顔が覗き込んでいた
浅い呼吸を整えつつリッキーに話しかけた。
「結局お前はなんだ、誰なんだ」
表情はよく見えないがいつも通りフザケタ笑顔をしてるに違いない。
「僕は君だし、君は僕だよ」
「何が言いたい」
リッキーはしゃがみ込み話をつづける
「神様と言われればそうだし、悪魔と言われればそうだね」
遠くなる意識とは別に上がる心拍数
神はいないそう断言した、ただ今目の前に神様がいるのなら
「お願いだ、助けてくれ、死にたくないんだ、神様なんだろ?傷くらい直せるよな?」
「そんなん無理だよ、だって僕は今まで見えないところでサイコロを振ってただけなんだもん、はぁやっぱりもうここでサイコロ振るのはやめとくよ、なんか君ってつまらない人だったね」
「ふざけ・・・・・・」
神は異常か? @MAAMU2
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